第二十齣 偵報
第20出 偵報
〔外角が末角を連れて中軍を演じ、四人の雑役が刀や棒を持って登場〕要衝の辺境を守り大城を掌握する、辺関の知らせを聞けば確かに驚かされる。憂国の心はどれほどか知らねど、白髪が新たに四五本増えた。下官郭子儀、聖上の恩顧を蒙り、霊武太守に抜擢された。先に長安にいた時、安禄山の顔に叛意の相があるのを見て、彼が禍心を秘めているのを知った。思わぬことに聖上は彼に命じて范陽を鎮守させ、明らかに虎を山に放つがごときであった。しかも彼に番将の交代を許し、ますますその爪牙を強めた。下官は天徳軍から昇任して以来、日夜憂慮している。この霊武は朝廷の股肱たる重地であり、防守は厳重を期さねばならぬ。すでに精鋭の斥候を派遣し、范陽へ探りに行かせてある。彼の帰還を待ち、その詳細を知ろう。
【双調・夜行船】〔小生角が探子を演じ、小紅旗を持って登場〕両脚は流星のように奔り電光のごとく疾く、辺関の軍情をいくばくか探ってきた。急ぎ燕山を離れ、早々に霊武に到る。〔外角に進み謁見し、片膝をついて叩頭する科〕黄堂に向かって雷のごとく一声高く唱える。
〔外角〕探子よ、戻ったか。〔小生角〕肩に令字の小旗を担い、昼夜を駆けて風のように疾し。辺関の事どもを探り得て、頭から主君に報じに来る。〔外角〕門を閉じるよう命じよ。〔衆角門を閉じて退場〕〔外角〕探子よ、お前が探った安禄山の軍情はどうだ、兵勢は如何に。近う寄れ、詳しく我に語れ。〔小生角〕殿様、お聞き入れください。小斥候が范陽の地に到りましたならば、
【喬木查】刀槍は雪のごとく白く、密集した鉄騎が連営して列をなす。まことに号令は山のごとく鬼神も恐れさせる。いずくにか朝中の天子の尊厳を知らん、ただ将軍の陣中の威風を逞しくするのみ。
〔外角〕その安禄山は辺関で、近ごろ何をしているのか。〔小生角〕
【慶宣和】彼はかの番将を請い寄せて漢将を換え、四方に爪牙を配置し整える。日ごとに馬を駆り弓を引いて馳せ猟を競い、兵威を誇るなり、誇るなり!
〔外角〕他に何か動きはあるか。〔小生角〕
【落梅花】彼の賊子の行状は真に測り難く、邪な心腸は特に放埓に奸邪を振るう。諸々の番人を誘い密かに互いに結託せしめ、さらに四方の亡命の徒を私かに招き、巣穴の内には凶悪の孽種をことごとく蔵す。
〔外角驚く科〕ああ、かような事があるとは!まさか朝廷の上で、告げる者もいなかったのか。〔小生角〕聞くところによれば、一月前、京中に安禄山の叛状を告発する者があり、万歳様は密かに中使を遣わし、范陽に至ってその動静を窺わせた。その安禄山、中使に見えましては、
【風入松】ことさらに小心に礼を尽くし愚を装い、金銭を尽くして奸邪を覆い隠す。一人の中官をすっかり喜ばせて欺き、往復奏上して叛逆の跡をことごとく隠す。このゆえに万歳様はますます信じて疑わず、かえって告発の者を安禄山の軍前に送りて罪を処せしむ。彼の横暴傲慢凶暴に任せて、誰か敢えて口舌を弄する者あらん!
〔外角嘆息する介〕これではどうしようもないな!〔小生角〕先日、楊丞相また一本の奏章を上せ、安禄山の叛逆の兆し明らかなりとて、陛下に急ぎ誅殺を請う。その安禄山、この奏章を見ましては、
【撥不断】もとより足を跌くこと免れず、口に嘆き、心に忐忑として怯えを生ず。思わぬことに聖旨はかえって安禄山は誠実なりとて、丞相は疑いを生ずるなかれと。彼、この知らせを聞くや、すなわち呵呵大笑し、この讒臣我を如何せんと罵り、歯を食いしばりて君側の権奸を滅ぼさんと誓い、怒りに任せて急ぎこの仇を雪たんとす。
〔外角〕ああ、彼が君側の奸臣を誅せんとするのは、叛意ならずして何ぞや。待て、楊丞相のこの奏章、なぜ邸報に見えぬのか。〔小生角〕これは密本にて、もとより邸報に抄出すべきにあらず。ただ楊丞相が安禄山を激して速やかに叛かせんと欲し、ことさらに塘報にて抄送せしめしものなり。〔外角怒る科〕ああ、外に叛逆の藩鎮あり、内に奸詐の宰相あり、まことに人をして髪を指さしめす!〔小生角〕小斥候また安禄山の近ごろ献馬の一事あるを聞きつけまして、これはさらに凄まじうございます!
【離亭宴歇拍煞】彼もとより豺狼の威を逞しくせんと欲し、密かに掠奪を企む。巧みに献馬の名を借り、勢いに乗じて強奪をなさんとす。〔外角〕いかに献馬するのか、明らかに語れ。〔小生角〕彼は何千年を遣わし、奏章を奉じて献馬三千匹と称し、馬ごとに甲士二人、また二人の御馬、一人の草刈牧夫、合わせて三五一万五千人、護送して京に入らんとす。一路に兵強く馬劣り、騒々しくいかで防ぎ得ん!乱れ騒ぎて鎮め難く、急ぎ騒ぎて誰か阻み得ん。生兵は京城に入り、野馬は城闕に臨み、恐らくは長安を騒がさずんばあらじ!〔外角驚く科〕ああ、それまでか。この計行われなば、西京危うし。〔小生角〕この奏章はようやく入れしところ、未だ聖旨を得ず。ただ安禄山は、あからさまに至尊を欺き、狡くも奸計を用い、険しくも機関を備える。馬蹄は行かずとも、狼の性はついに安んぜず。戦鼓を漁陽に向かって打ち動かすを誘うなり。殿様よ、白羽の矢を伝うるを待ちて始めて整えることなかれ。小斥候は、紅旗を閃かして再び捷報を伝えん。
〔外角〕了せり。お前に酒一壇、羊一頭、花銀五十両を賜う。一月の勤めを免ず。行け。〔小生角叩頭する科〕殿様、ありがたうございます。〔外角〕左右に命じ、門を開けよ。〔衆角応じて登場し、門を開く科〕〔小生角退場〕〔外角〕中軍官。〔末角応ずる介〕〔外角〕衆軍士に伝令せよ、明日教場にて操演、酒席を準備して犒賞せよ。〔末角〕ご命令を承りました。〔先に退場〕
〔外角〕数騎漁陽より探使の帰る、〈(杜牧)〉 威雄八陣風雷を役す。〈(劉禹錫)〉
〔外角〕胸中別に安辺の計策あり、〈(曹唐)〉 軍令分明に数度杯を挙ぐ。〈(杜甫)〉
