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長生殿

第08齣 献髪

第 8 篇

第八齣 献髪

(副浄が慌てて登場)「天に不測の風雲あり、人に旦夕の禍福あり」。下官・楊国忠、妹が妃に冊封されて以来、権勢は日ごとに大きくなっていた。ところが今朝、突然、妃が聖旨に背き、宮中を追放され、高内監の命で車に乗せられ、我が家の門前に送り届けられるという知らせが来た。何が原因か分からず、まことに驚き恐れ入る。まずは門前まで出迎えに行こう。(一旦退場)

【仙呂過曲・望吾郷】(醜形が旦形を車に乗せて登場)君王の心は測り難く、恩寵はどこに求めるべきか。美人は忽然と謀略に遭い、その理由を考えても、誰がその真意を知ろう。なぜ偏に我をかくも見捨てるのか。長門宮は隔たり、永巷は深く幽かで、振り返れば、憂いは抑えがたし。

(副浄が登場し、跪いて迎える)臣・楊国忠、娘娘を迎えまつる。(醜)丞相、早く娘娘を御府にお入れ申せ、私にも申し上げることがある。(副)庭よ、侍女たちに申し付けよ、娘娘を後堂にお連れ申せ。(侍女が登場し、旦形を車から扶け降ろし、囲んで退場する)(副浄が醜に向かって拱手する)老公公、お掛け下され。この一件、どのようにして起こったのでございますか?(醜)娘娘よ、

【一封書】君王の寵愛は最も深く、後宮にて寝所を共にすることを専らとされた。昨日のこと、何の故か聖心に触れ、忽ちにして冷遇された。丞相よ、私の多弁を咎め給うな。娘娘は、生まれつきの嬌痴に慣れて、御寝所にて嫌疑を招くこと、免れ難かったのだ。(副浄)今、宮中を追放されて参りましたが、如何致すべきか?(醜)丞相はひとまず朝門にて謝罪し、機を見て行動せよ。(副浄)老公公、全てはあなた様が宮中に入り、諫め、聖上を悟らせて下さるに掛かっております。(醜)それは当然のこと。(合)必ずや再び宮花を上林苑に迎え入れよう。

(醜)ここでお別れ申す。(副浄)下官も同行いたします。(内に向かって)庭よ、侍女に申し付けよ、きちんと娘娘をお世話せよと。(内から応答あり)(副浄)「烏と喜鵲、同じく行くも、吉凶の事、全くもって知れず」。(醜と共に退場)

【中呂引子・行香子】(旦形が梅香を連れて登場)宮門を出たばかり、驚きの魂未だ定まらず、満面の啼痕、憂いの化粧を潤す。その中の心事、語るに忍びぬもの多し。ただ己が容姿を憐れみ、薄き命を嘆き、昔日の深き恩を憶うのみ。

君の恩情は流水のごとく東に流れ、寵愛を得れば失うことを憂え、失えば憂いに満つ。杯の前で「花落つ」の曲を弾くことなかれ、涼風はただ宮殿の西頭にあり。我、楊玉環、宮中に入りてより、過分の寵愛を蒙る。ただ君心を託し得て、百年の楽しみを共にせんと願うのみ。誰が思い及ばん、我が命の不幸にて、一時君の怒りに触れんとは。かくて宮中を追放され、私宅に帰されし。宮門を一歩出でれば、九天を隔つるが如し。(涙を流す)天よ、宮中の明月、永遠に影を映す日のあり得ず。苑外に散る花、既に枝に帰る望み無し。我が身を撫して自ら悼み、袖を掩いて空しく嘆く。まことに傷ましきかな。

【中呂過曲・榴花泣】【石榴花】羅衣を軽く払えば、尚も御香の熏じたる気配に染まり、往日の恩に如何に感謝すべきか。想えば春の遊び、春の従い、朝より夕べに及びし日々、【泣顔回】誰か知らん、今の断雲残雨の境遇に遭わんとは。我、嬌を含み、嗔りを帯びて、常には彼、百方我に従いしに、思いも寄らず、些細な枝葉の故に、忽ち連理の枝を軽く引き離されんとは。

侍女よ、ここに宮中を望み見ることのできる場所はあるか?(梅)前方の御書楼に上がり、西北を望めば、宮牆がございます。(旦)汝、我と共に楼に上がれ。(梅)承知しました。(旦、楼に登る)「西宮渺として見えず、腸断つ一登楼」。(梅が指さす)娘娘、この一帯の黄澄みたる瑠璃瓦、これ九重の宮殿ではございませぬか?(旦、涙を流す)

【前腔】高きに凭りて涙を洒き、遥かに九重の宮門を望む。咫尺の間、紅雲を隔つ。嘆く、昨夜までは鳳帷の中の人なりしに、彼の心を回らし、再び温存を我に与えんことを望む。天よ、余りにも残忍なり、未だ白髪にならざるに先立ちて君恩を絶ち給うとは!(梅が指さす)あっ、遠くより一人の老公公、馬に乗りて来たるは、恐らく娘娘を召しに来たのでございましょう!(旦、嘆息す)思い做すに、丹鳳が詔書を銜み来たるにはあらず、大方また烏が消息を伝えに来たるならん。

(旦、楼を下りる)(醜が登場)「暗に懐旧の意を将ち、失歓の人に報ぜんとす」。(顔を合わせる)高力士、娘娘に拝す。(旦)高力士、汝、何しに来たる?(醜)奴婢、先ほど復旨いたし、万歳様、娘娘の御府に帰られし様子を詳しくお尋ねになり、悔やみ給う御心の色ありし。今、独り宮中に坐し、長吁短嘆、必ずや娘娘を想い給うに違いございませぬ。故に、ことさらに参りて申し上げます。(旦)ああ、よくも我を思い給うたものかな!(醜)奴婢愚鈍にてございますが、敢えて諫め申し上げずにはおられませぬ。娘娘、余りに固執せさせ給うな。若し何か品物ございましたら、奴婢にお預け下され。機会を窺いて進上いたしませう。或いは聖心を動かすことも、知れませぬ。(旦)高力士、汝、我に何を進上せよと申すか?(思案に耽る)

【喜漁灯犯】【喜漁灯】想う、何を用いて情意を伝え、君王を感動させ得べきか。我、一身の外、全て君王の賜物、算するに愁涙千行、真珠のごとく乱れ滾るのみ。又、金糸に貫きて雕盤に進むこと難し。おお、ありけり、【剔銀灯】この一筋の青き香り潤える髪、嘗て君と枕上に並び頭を偎せしもの、嘗て鏡に向かいて汝のために雲鬢を撩りしもの。侍女よ、鏡台と金剪を持て。(梅、応じて取りに上がる)(旦、髻を解く)ああ、髪よ、髪よ!【漁家傲】惜しむらくは、汝、我が芳年に伴いしものを、剪りては心に忍び難し。只、我が衷腸を表さんと欲するが為に、(髪を剪る)剪る時、自ら心に哀れむ。(髪を手に取り、泣く)髪よ、髪よ!【喜漁灯】全て汝に託す、我が殷勤の意を。(拝す)我が聖上よ、奴家の身には、ただこの疎かなる数筋の髪のみ、これ即ち我が残糸断魂なり。(立ち上がる)高力士、汝、これを持ちて我に代わりて聖上に奏し申せ。(泣く)妾、罪万死に当たり、この生この世、再び天顔を拝すること能わずと申せ。謹んでこの髪を献じ、以て依恋の情を表すと。(醜、跪いて髪を受け、肩に掛ける)娘娘、御愁煩を免れ給え。奴婢、これにて罷り立ち申す。「好く凭る、縷々の青糸の髪、重ねて結ばん、双双白首の縁」。(退場)(旦、坐して泣く)(老旦、貼、登場)

【榴花灯犯】【剔銀灯】聞くならくは、貴妃の妹君、君王に触れ給いしとか、【石榴花】聞くならくは、実家に帰され給いしとか、【普天楽】聞くならくは、失勢の兄君、憂い哀しみ給いしとか、聞くならくは、中官来たりて、何やら申し上げしとか?(入場)貴妃娘娘は何処に?(梅)韓、虢の二国夫人がお見えでございます。(旦、泣いて言葉を発せず)(老旦、貼、顔を合わせる)(老旦)貴妃、御愁煩を免れ給え。(共に泣く)(貼)先日、望春宮にて、聖上は大いに御満足遊ばされしに、何故に忽ちかくの如き変故ありしや?【漁家傲】我は千秋万歳、楽しみ尽きること無しと思いしに、【尾犯序】我は、汝が笑い顰み、思いのままならんと思いしに、【石榴花】我は、縦い過ちありとも、誰か汝と計らわんと思いしに!(老旦)裴家の妹子よ、【錦纏道】只管に閑語絮語を弄するな。貴妃、汝が大いに怒りに逢いしこと、その中に何ぞ根由原因ありや?(旦、取り合わず)(貼)貴妃よ、我が言葉を咎め給うな、【剔銀灯】古来、寵愛多きは隙を生じ、秋来たれば君恩の減ずるを知るべし。汝、人として、如何にして至尊に奉ぜんや?(老旦、合す)【雁過声】姉妹たち、情切に来たりて問うに、何ぞ耳許に絮叨叨と、総て聞こえざるが如くならん!(旦)

【尾声】秋風の団扇、本来我が分にて、姉妹たちの、ことさらに来たりて慰め給うを謝す。縦い千言万語ありとも、只心の中に思うのみ。

(そのまま退場)(貼)姉御、この様子、如何に致しませう?(老旦)まさにその通り。我ら、ことさらに彼女を見舞いに来たるに、彼女、心に事ありて、竟に自ら部屋に入りし。妹子よ、汝、再び望春宮に至らん時、彼女を真似ることなかれ。(貼、恥じらう)ちっ!

(貼)今朝、忽ち下天門を見る、(張籍)

(老旦)相対して、那ぞ能く神を怆らざらんや。(廖匡図)

(貼)冷眼静かに看て、真に好笑すべし、(徐夤)

(老旦)中に芒刺を含みて、人を傷つけんと欲す。(陸亀蒙)