弁血痺虚労病脈証並治
血痺・虚労病の脈証並びに治を辨ず
問うて曰く、血痺の病は何に従いて之を得るや。師曰く、夫れ尊栄の人、骨弱く、肌膚盛んなり。重ねて因りて疲労し、汗出で、臥すに時として動揺せず、加うるに被ること微風、遂に之を得る。
或人問う、血痺という病は、どのようにして得るのか。師曰く、あの養尊処優の人は、筋骨脆く、肌膚厚く、それに疲労が重なり、汗をかき、寝ている時にも時折体を動かし、微風に当たって、遂に血痺を得る。
但だ脈、寸口微渋、関上小緊なるを以て、宜しく針を以て陽気を引き、脈を和ならしめ、緊去れば則ち癒ゆ。
この病はただ寸口脈が微渋、関上脈が小緊を示すので、針灸で陽気を導き、脈を平らかにし、緊脈が去れば治癒する。
血痺、陰陽倶に微、或いは寸口・関上微にして、尺中小緊、外証は身体不仁、風痺の状の如きは、黄耆桂枝五物湯之を主る。
血痺病、陰陽気血ともに虚弱、あるいは寸口と関上の脈が微弱、尺中の脈が小緊、外証は身体が麻痺不仁で、風痺のような様子には、黄耆桂枝五物湯で主治する。
黄耆桂枝五物湯方
黄耆三両 桂枝三両 芍薬三両 生姜六両 大棗十二枚
右五味、水六升を以て、煮て二升を取り、温めて七合を服す、日三服。
以上の五味の薬、水六升で煮て二升を取り、温めて七合ずつ、一日三回服する。
男子平人、脈大なるは労為り、極虚も亦労為り。
男子が平常無病の時、脈が大きいのは虚労、脈が極度に虚なのも虚労である。
男子、面色薄き者は、渇及び亡血を主り、卒喘悸し、脈浮する者は、裏虚なり。
男子で顔色が淡く艶のない者は、口渇と失血を主り、突然喘鳴や心悸が起こり、脈が浮くのは、裏虚である。
男子、脈虚沈弦、寒熱無く、短気、裏急、小便不利、面色白く、時に目瞑し兼ねて衄し、少腹満つ、此れ労の然らしむる所なり。
男子で脈が虚弱沈弦、発熱悪寒がなく、息切れ、腹中が急に引きつり、小便が通りにくく、顔色が蒼白で、時々目まいがして鼻血も出、下腹部が張るのは、これ虚労によるものである。
労の病為る、其の脈浮大、手足煩、春夏に劇しく、秋冬に差り、陰寒精自ずから出で、酸削りて行く能わず。
虚労という病は、脈が浮大、手足がほてり煩う、春夏に悪化し、秋冬に軽快し、陰部が冷え、精液が自然に漏れ、足がだるくやせ細って歩けない。
男子、脈浮弱渋なるは、子無き為り、精気清冷なり。
男子で脈が浮弱渋の者は、子ができない、精気が清く冷たい。
失精の家、少陰脈弦急、陰頭寒く、目眩し、髪落ち、脈極虚芤遅なる者は、清谷・亡血・失精の為り;
常に遺精する者は、少陰脈が弦急、陰茎の先が冷え、目まい、脱毛、脈が極度に虚で芤遅のものは、消化不良、失血、遺精である;
脈諸々の芤動微緊を得る者は、男子にては則ち失精し、女子にては則ち夢交す、桂枝竜骨牡蛎湯之を主る。天雄散亦之を主る。
脈に芤動微緊が現れる者は、男子なら遺精、女子なら夢交があり、桂枝竜骨牡蛎湯で主治する。天雄散もこれで主治する。
桂枝竜骨牡蛎湯方
桂枝三両 芍薬三両 甘草二両(炙) 生姜三両 大棗十二枚 竜骨三両 牡蛎三両
右七味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、分けて温めて三服す。
以上の七味の薬、水七升で煮て三升を取り、滓を除き、三回に分けて温服する。
天雄散方
天雄三両(炮) 白朮八両 桂枝六両 竜骨三両
右四味、杵して散と為し、酒を以て半銭匙を服す、日三服、知らざれば稍増し、知るを以て度と為す。
以上の四味の薬、杵でついて散剤とし、酒で半さじを服用、一日三回、効き目がなければ少し増量し、効き目が出るのを限度とする。
男子平人、脈虚弱細微なる者は、喜びて盗汗す。
男子で平常無病の時、脈が虚弱細微の者は、寝汗をかきやすい。
人年五六十にして、其の脈大なる者は、病は痺、背を挟みて行く;若し腸鳴し、馬刀挟瘿する者は、皆労の之を得る所なり。其の脈小沈遅なる者は、病は脱気、疾行すれば則ち喘渇す;手足逆寒する者は、亦労の病と為す。
人が五十、六十歳で、脈の大きい者は、痺病を患い、背中に沿って痛む;もし腸鳴があり、腋や頸に瘰癧ができる者は、みな虚労から来ている。脈が小沈遅の者は、気虚の病で、速く歩けば喘ぎ口渇する;手足が冷えているのも、虚労による病である。
虚労、裏急、悸衄、腹中痛、夢に失精し、四肢酸疼し、手足煩熱し、咽干口燥する者は、小建中湯之を主る。
虚労で腹中が急に引きつり、心悸、鼻血、腹痛、夢精、四肢の酸痛、手足のほてり、のどが渇き口が乾く者には、小建中湯で主治する。
小建中湯方
桂枝三両 芍薬六両 甘草三両(炙) 生姜三両 大棗十二枚 膠飴一升
右六味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、膠飴を納れ、更に上り微火に消解し、温めて一升を服す、日三服。
以上の六味の薬、水七升で煮て三升を取り、滓を除き、膠飴を加え、さらに微火にかけて溶かし、温めて一升ずつ、一日三回服する。
虚労、裏急、諸々不足する者は、黄耆建中湯之を主る。
虚労で腹中が急に引きつり、諸々の虚損不足がある者には、黄耆建中湯で主治する。
黄耆建中湯方
即ち前方の小建中に黄耆一両半を加う。気短、胸満する者は、生姜一両を加う;腹満する者は、大棗を去り、茯苓一両半を加う;大便秘結する者は、大棗を去り、枳実一両半を加う;肺気虚損する者は、半夏三両を加う。
すなわち先の小建中湯に黄耆一両半を加える。息切れ、胸が詰まる者は、生姜一両を加える;腹が張る者は、大棗を除き、茯苓一両半を加える;便秘の者は、大棗を除き、枳実一両半を加える;肺気が虚損している者は、半夏三両を加える。
虚労、腰痛、少腹拘急、小便不利なる者は、腎気丸之を主る。
虚労で腰痛、下腹部が急に引きつり、小便が通りにくい者には、腎気丸で主治する。
腎気丸方
地黄八両 薯蕷四両 山茱萸四両 沢瀉三両 牡丹皮三両 茯苓三両 桂枝一両 附子一枚(炮)
右八味、搗き篩い、煉蜜を以て和して丸と為し、梧桐子の大きさの如く、酒を下り十五丸、漸く加えて二十五丸に至る、日再服、飲む能わざる者は、白飲を以て之を下す。
以上の八味の薬、搗いて篩い、煉蜜で練って丸剤とし、梧桐子大にし、酒で十五丸を飲み下し、徐々に二十五丸まで増やす、一日二回服用、酒が飲めない者は、白湯で飲み下す。
虚労、虚煩して眠るを得ざる者は、酸棗仁湯之を主る。
虚労で虚煩して眠れない者には、酸棗仁湯で主治する。
酸棗仁湯方
酸棗仁二升 甘草一両 知母二両 茯苓二両 芎藭一両
右五味、水八升を以て、酸棗仁を煮て、六升を得、諸薬を納れ、煮て三升を取り、滓を去り、温めて一升を服す、日三服。
以上の五味の薬、水八升で酸棗仁を煮て、六升の液を得、他の薬を加え、煮て三升を取り、滓を除き、温めて一升ずつ、一日三回服する。
五労虚極、羸瘦して腹満し、飲食する能わず、食傷、憂傷、飲傷、房室傷、飢傷、労傷、経絡栄衛気の傷、内に乾血有り、肌膚甲錯し、両目黯黒、緩中補虚、大黄蟅虫丸之を主る。
五労で体が極度に虚弱になり、やせ細って腹が張り、飲食できない。病因は飲食の損傷、憂愁の損傷、飲酒の損傷、房事の損傷、飢餓の損傷、労役の損傷、経絡と営衛気の損傷、体内に瘀血が乾結し、皮膚が鱗甲のように荒れ、両眼が暗黒になる。治療は中を緩め虚を補う、大黄蟅虫丸で主治する。
大黄蟅虫丸方
大黄十両 黄芩二両 甘草三両 桃仁一升 杏仁一升 芍薬四両 地黄十両 乾漆一両 虻虫一升 水蛭百枚 蛴螬一升 蟅虫半升
右十二味、末と為し、煉蜜を以て和して丸と為し、小豆の大きさの如く、酒飲を以て五丸を服す、日三服。
以上の十二味の薬、粉末にし、煉蜜で練って丸剤とし、小豆大にし、酒または水で五丸を服用、一日三回服する。
以上の十二味の薬を、細かい末にし、練り蜜で調和して丸剤とし、小豆大とする。酒で五丸を送り服し、毎日三回服する。
女労、膀胱が急に引きつり、少腹が満ち、全身が黄変し、額が黒く、足の裏が熱く、その腹部の脹れが水のようで、大便が溏で黒く、胸が満つる者は、治し難い。硝石礬石散を主剤とする。
女労疸病は、膀胱が拘急し、小腹が脹満し、全身が黄変し、額が黒く、足の裏が熱く、腹部の脹れが水腫のようで、大便が溏泄して色が黒く、胸が満つる者は、治療し難い。硝石礬石散をもって主治する。
硝石礬石散方
硝石(熬って黄とする) 礬石(焼く) 各等分
右の二味を散と為し、大麦粥の汁で和えて方寸匕を服し、日に三服す。大便黒く、小便黄なるは、その候なり。
以上の二味の薬を、散剤と為し、大麦粥の汁で調和して方寸匕を服し、毎日三回服する。大便が黒く、小便が黄となるのは、これ薬が効を示す反応である。
