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第五本 張君瑞慶團圓

第五本 張君瑞慶團円 第二折

第 24 篇

第五本 張君瑞、慶び團圓す・第二折

【末、登場して言う】虎を畫き終へざるに先立ちて笑ふな、爪牙を整へてこそ人を驚かす。我は本來及第すれば官を授けらるる身、聖旨を奉じ、翰林院にて國史を編修す。彼ら何ぞ我が心を知らん、いかなる文章が成し得ようぞ!琴童を遣はして吉報を傳へしむれども、歸らず。この數日、寢ねても安からず、飲食も減じ、驛中にて假養す。朝に太醫院の人來りて診察し、藥を開きて去れり。我がこの病、扁鵲も治し得ず。小姐を別れてよりこのかた、心に閑なる日一日だになし! 【中呂】【粉蝶兒】京に到りてよりこのかた、思慕の心は朝夕かくの如く、心には我が鶯々横たはる。醫師を請じ、診斷を終へ、一つ一つ委しく説き明かす。我は辭せんと欲すれども、彼に虛實を悟られ、更に診るに及ばず。 【醉春風】彼が言ふ、雜症を治するに方法はあれども、相思を療するに藥は無しと。鶯々よ、汝若し我が相思に罹れるを知らば、我は甘んじて汝がために死なん、死なん。四海に家無く、一身は外に寄寓し、半年將に近づかんとす。【僕、登場して言う】我は哥哥已に官を授けられたるものと思ひき、原來驛中に病を抱へてありき。必ず書信を持ち歸らざるべからず。【見合ひて禮を行ふ】【末、言う】汝は歸りたり。 【迎仙客】思ふにこの花枝に鵲の鳴き、簾幕に蜘蛛の垂るるは、正に昨夜の短燈檠に燈花の爆けし時に應ずるか。若し斷腸の詞に非ずんば、必ず斷腸の詩ならん。【僕、言う】小夫人より書信、此に到れり。【末、書信を受け取る】書きし時、情淚絲の如くなりしならん。然らずんば、どうして淚點が封皮に浸り濕さるる事あらん。【末、書信を讀む】「薄命妾崔氏、拜して復す、敬みて才郎君瑞文に奉る。自ら音容去りし後、覺えず時日を經たり。敬仰の心、未だ嘗て少しく懈怠する有らず。『日は長安に近けれども遠し』と雖も、何ぞ魚雁の音信かくの如く杳として無きや。花柳の心に因りて、妾が恩情の意を拋つ事莫れ。正に想念の間、琴童到り、手書を得て、中科を知り、我をして喜び狂へるが如くならしむ。郎君の才華名望、相國の家譜を辱しむるに足らず。今、琴童の歸るに因りて、奉る物無く、姑く瑶琴一張、玉簪一枝、斑管一枚、裹肚一條、汗衫一件、襪子一雙を送り、權ら妾が真誠を表す。匆匆草字、恭しさを欠く。伏して情恕し、備はらざるを請ふ。謹んで來韻に依り、一絕を續けて云ふ、欄干倚り盡くして才郎を盼む、宸京の黃四娘を戀ふる莫れ。病裏に書を得て甲第を知り、窗前に鏡を覽て新妝を試む。」ああ、風流なる姐姐よ!かくの如き女子、張珙死すとも値するなり。 【上小樓】これ書法の史と爲るべき、款識と爲るべき。柳公權の骨力、顏真卿の筋力、張旭、張芝、王羲之、王獻之有り。此の時は一時、彼の時は一時、佳人才思、我が鶯々世に雙ぶ者無し。 【幺篇】我れこれを經咒の如く持し、符籙の如く用ふ。金章に高く、金帛に重く、金資に貴し。この上に若し簽字を押し、令史を遣はし、勾使を差せば、即ち急ぎ印を捺す暇なき赴期の咨文なり。【末、汗衫を取りて言う】文章を言ふを須ひず、ただ彼の針線の仕事を見よ、人間に少なし。 【滿庭芳】怎してか張生に汝を愛せしめざらん、針工の出色と稱すべき、女教の師と爲るべき。幾千般の用意、針針かくの如し、尋ね思ふべし。長さと短さ、又樣も無く、狹さと廣さ、腰肢を想像す。好し惡し、未だ人試みに着る無し。當初作りし時を想ふ、用ゐ盡くせしあの小心思。小姐が寄せ來れるこれらの物、皆故有り、一つ一つ我皆猜り當てつ。 【白鶴子】この琴、彼は我に教ふ、門を閉ぢて禁指を學び、意を留めて聲詩を譜せよと。聖賢の心を調養し、巢父、許由の耳を洗はんと。 【二】この玉簪、纖長にして竹の筍の如し、細白にして葱の枝の似く、温潤にして清香有り、瑩潔にして瑕疵無し。 【三】この斑管、霜枝曾て鳳凰を栖け、淚點、胭脂を浸し漬す。當年舜帝、娥皇を痛悼し、今日淑女、君子を思慕す。 【四】この裹肚、手中の一葉の綿、燈下の幾回の絲、腹中の愁ひを表し出だし、果たして心間の事に稱ふ。 【五】この鞋襪、針脚兒細かに虮子の似く、絹帛兒膩やかに鵝脂の似し、既に禮を知り亂りに行歩せず、足下當にかくの如くあるを願ふ。琴童、汝が臨み去る時、小夫人は汝に對して何を言ひしか?【僕、言う】哥哥に別して良緣を娶るなかれと。【末、言う】小姐よ、汝は未だ我が心を知らず! 【快活三】冷清たる客店兒、風淅淅として雨絲絲、雨兒零れ風兒細かにして夢回る時、多少の傷心事! 【朝天子】四肢動かず、急に蒲東寺を盼む。小夫人は須く汝が見る時、何の閑話を傳ふるか有らん。我は浪子官人、風流學士、怎して肯て殘花に舊枝を折らん。自ら、此に到り、何を閑逛の街市とするか。 【賀聖朝】少なからず宰相の人家、婿を招く嬌女?其の中或いは人に汝に似たる有らんも、何處にかあの溫柔、この才思有らん。鶯々の心意を想ふ、怎して人をして夢想眠思せしめざらん。琴童來、これらの衣裳物を收拾せよ。 【耍孩兒】即ち書房中に藤箱子を出だし、箱子の中に向かひて數張の紙を鋪く。放つ時須らく心を用ゐ思ふべし、藤刺兒の綿絲を捉ふるを莫からしめよ。高く衣架上に擡げては色の褪するを怕れ、亂りに包袱中に塞きては褶の挫くるを怕る。當にかくの如くすべし、切に愛護すべく、苟且なるを得ず。 【二煞】方に新婚燕爾たるに、功名の爲に此に來る。長安に蒲東寺を憶ふ。昨夜は愛す春風桃李の花開く夜、今日は愁ふ秋雨梧桐の葉落つる時。愁ひかくの如し、身は遠く心は近く、坐りて想ひ行きて思ふ。 【三煞】この天高地厚の情意、海枯石爛の時に至るまで。この時の思念、何れの時にか止まん、燭灰の眼下に至りて始めて淚無く、蠶老いて心中に至りて始めて絲を罷むるに至るまで。我は遊蕩の輕薄子に非ず、夫婦の琴瑟を輕んじ、鸞鳳の雄雌を拆くを。 【四煞】黃犬の音信を聞かず、紅葉の詩句を傳へ難く、驛長、梅花の使者に遇はず。孤身、國を離るること三千里、一日の歸心十二時。欄干に憑りて看る、江聲の浩蕩を聽き、山色の參差を看る。 【尾】憂ふは則ち我が病中に在るを憂ひ、喜ぶは則ち汝が此に到るを喜ぶ。我が魂魄を引き來たる卓氏の音書の到るを待ち、殆んどこの鬼病の相如を望み死なしめんとす。【下場】