モバイルで快適に読む 『西遊記』アプリ:全文検索、しおり、読み上げ、オフライン
テーマ
文字サイズ 18
西遊記

第四十一回 心猿遭火敗 木母被魔擒

第 41 篇

第四十一回 心猿、火に敗れ 木母、魔に擒にせらる

善と悪、一時に念想を忘れ、栄と枯、すべて心に掛けず。明暗隠れ潜み、浮き沈みに任す。分に随いて安んじ、飢えれば食らい、渇けば飲む。

心神静かに澄み、常に寂滅の中に在るも、もし昏く沈み暗ければ、魔来たりて侵す。五行相剋し、禅林を踏み壊す。風一たび動けば、必ず寒さ凛冽たるを覚ゆ。

さて、その孫大聖は八戒を連れ、沙僧に別れを告げ、枯松澗を飛び越え、直ちにその怪石崖の前に至る。果たして一つの洞府を見る。まことに景致、並び無きものあり。見れば:

回り巡る古道は幽かにして深く、清風明月、玄鶴の鳴くを聴く。

白雲透りて山川の水光に満ち、流水橋を渡りて、仙人の趣に満つ。

猿猴嘯き、鳥児啼き、花木奇異にして、藤蘿、石階、芝蘭の勝景。

蒼翠の崖壁揺らぎ、煙霞を散じ、青緑の松竹、彩鳳を招く。

遠く列なる山峰は挿せる屏風の如く、山巒は向かい、澗水は巡りて、真に神仙の洞府なり。

崑崙山の地脈、来龍を延べ、縁有り福有る人、楽しみて享受す。

門前に近づき到り、一つの石碑を見る。上に八つの大字を刻みて、「号山枯松澗火雲洞」とあり。その一方に一群の小妖有り、そこにて鎗や剣を振るい、跳ね回りて戯る。

孫大聖、声を厲しくして高く叫びて言う:「あの小さい者ども、早々に洞主に報じて知らせよ。我が唐僧の師匠を送り出させよ。さもなくば、この一洞の精霊の命を失わん。もし半ばの『否』の字を迸り出ださば、我は汝の山場を覆し、汝の洞府を踏み平らげん。」那些の小妖、この話を聞き、慌てて急ぎ身を転じ、それぞれ洞に帰り、両つの石の門を閉ざし、中に入りて報告す:「大王、禍事がござります。」

さて、その妖怪、三蔵を洞中に拿えてより、衣服を剥ぎ、四肢を後院に縛り、小妖に清き水を打たせて刷洗せしめ、籠に上せて蒸し食らわんと準備す。忽然として禍事の報告を聞き、しばらく刷洗を止め、前庭に至りて問う:「何の禍事ぞ?」小妖言う:「毛顔雷公嘴の和尚有り、一つの長嘴大耳の和尚を連れ、門前にて何やら唐僧の師匠を求め申す。また、もし半ばの『否』の字を迸り出ださば、山場を覆し、洞府を踏み平らげんと申す。」魔王、微かに冷ややかに笑いて言う:「これは孫行者と猪八戒なり。彼らもまあ見つけ出したものだ。我がその師匠を拿え、半山腰よりここに至るまで一百五十里、いかにして門前に来り得たるか。」小さき者どもに、管車を推し出ださせよと命ず。その一班数個の小妖、五輛の小車を推し出だし、前門を開く。

八戒望み見て言う:「哥哥、この妖精、我らを恐れるにや。車を推し出だし、あちらへ物を運ばんとしている。」行者言う:「否、且つ彼が車を何処に置くかを見よ。」只見るに、小妖は車を金・木・水・火・土の位に従いて安んじ置き、五つを見守らせ、五つをして中に入りて報告せしむ。魔王問う:「停当せしか?」答えて言う:「停当せり。」人に鎗を取り寄せよと命ず。一伙の管兵器の小妖有り、二つに丈八の長き火尖鎗を抬ませ、妖王に与う。妖王、鎗を抡げ、歩みを進め、特に盔甲も無く、ただ腰に一条の錦繡戦裙を束ね、裸足にて門を出ず。行者と八戒、頭を抬げて観る。只見るに、その怪物:

顔は粉を塗りたる如く、三分の白嫩、唇は朱砂を塗りたる如く、一表の人才。

鬢髪は青云の如く挽き上げ、靛藍に染めしに勝り、眉は新月の如く、刀裁きの如し。

戦裙には盤る竜鳳を繍い、身形は哪吒より豊かに充つ。

双手に鎗を綽え、威風凛凛、祥光身を護り、門を出で来たる。

吼え声は春雷の炸くるが如く、暴眼は明るく閃電の迅きが如し。

この魔頭の真実の姓名を識らば、名は千古に揚り、紅孩と謂う。

その紅孩児怪、門を出で来たり、高声に叫びて言う:「何者か、我がここにて騒ぎ叫ぶ者!」行者、進み出で、笑いて言う:「我が賢侄よ、虚頭を弄するな。汝、今朝、山路の傍らにて、高々と松の樹梢に吊るされ、かくの如き痩せて弱く臆する黄病の小孩の様をなし、我が師匠を騙りたる。我、好意にて汝を背負いしに、汝は風を弄し、我が師匠を摂り来たれり。汝、今また此の様をなすも、我、汝を知らざらんや?早々に我が師匠を送り出だせ。顔を傷つけ、親情を失うこと無かれ。恐らくは汝の父君、知りて、我が老孫、長を以て幼を欺く、形振り相応しからずと怪しまん。」その怪、この話を聞き、心中大いに怒り、咄と一声、喝して言う:「その泼猴頭!我、汝と何の親情有るや?汝、ここにて満口に胡乱を言い、何の声経を引き合いに出す?誰が汝の賢侄なるや?」行者言う:「哥哥よ、汝も知らぬか。当年、我、汝の父君と兄弟を為しし時、汝は未だ何処に在るかも知らざりしぞ。」その怪言う:「この猿、ますます胡乱を言う!汝は何処の人、我は何処の人、いかで以て我が父君と兄弟を為し得んや?」行者言う:「汝は知らぬ。我は即ち五百年前、天宮を大いに鬧がせし齊天大聖孫悟空なり。我、初め天宮を鬧がせざる時、天涯海角、四大部洲を遊び遍くし、至らぬ所無し。その節、専ら豪傑を仰慕せり。汝の父君は牛魔王と謂い、平天大聖と称し、我が老孫と結拝して七兄弟と為し、彼をして大哥と為さしむ。また、蛟魔王有り、覆海大聖と称し、二哥と為る。また、大鵬魔王有り、混天大聖と称し、三哥と為る。また、獅𤟹王有り、移山大聖と称し、四哥と為る。また、猕猴王有り、通風大聖と称し、五哥と為る。また、𤟹狨王有り、駆神大聖と称し、六哥と為る。ただ老孫のみ身材小さく、齊天大聖と称し、第七に列す。我ら老兄弟たち、その節遊び戯れし時、未だ汝を生み出ださざりき。」

その怪物、この話を聞けども、いずくんぞ肯んぜん。火尖鎗を挙げて即ち刺す。行者は正にその会家、忙しからず、又た一つの身法を用い、鎗頭を閃かし過ごし、鉄棒を抡げ、罵りて言う:「この小畜生、高低を識らず、棍を見よ!」その妖精も身法を用い、鉄棒を過ごさせ、言う:「泼猢狲、時務を識らず、鎗を見よ!」彼の二人、何の親情をも論ぜず、一斉に変じ、各自神通を施展し、雲端に跳び上りて、好一場の厮杀:

行者名声大、魔王手段強。一つは金箍棒を横に挙げ、一つは火尖鎗を直に挺す。霧を吐き三界を遮り、雲を噴き四方を照らす。満天の殺気、凶声吼え叫び、日月星辰、光を見ず。言語に謙譲無く、情意両つ相背く。その一つは心に礼義を失い、この一つは顔を変じ綱常無し。棒を架けて威風長じ、鎗来たりて野性狂う。一つは混元の真大聖、一つは正果の善財郎。二人力を尽くし強を争い勝を闘わす、ただ唐僧が法王に拝するが為のみ。

その妖魔、孫大聖と二十の回合を戦い、勝敗分かたず。猪八戒、傍らに在りて明白に見る:妖精は未だ敗陣せざれども、ただ遮り防ぎ、全く攻殺の能力無し。行者は彼に勝ち得ざれども、棒法精強にして、来り去り、只だその妖精の頭上に在り、左右を離れず。八戒、暗に想う:「良からず。行者、手脚利落にして、一時に破綻を売り、その妖魔を哄して中に鑽り込ましめ、一鉄棒に打倒さん。さすれば我が功名無からん。」看よ、彼が精神を抖擻し、九歯鈀を空中に挙げ、妖精に向かって劈頭に築かんとす。その怪、之を見て心に驚き、急ぎ鎗を拖きて陣を敗る。行者喝して言う:「八戒、追え、追え。」

二人、彼の洞門前に追い到る。只見るに、妖精は片手に火尖鎗を挙げ、その中間の一輛の小車の上に立ち、片手は拳を捏ね、己が鼻の上に捶きて両拳。八戒笑いて言う:「この奴、無頼にして恥じを知らず。汝、良く鼻を捶き破り、些か血を迸り出だし、顔を擦り赤くして、何処へ我らを告げんとや?」その妖魔、両拳を捶き、一つの咒語を念じ、口の中より火を噴き出だし、鼻の中より濃烟迸り出で、瞬く間に、火焰斉しく生じ、その五輛の車上、火光湧き出ず。連ねて数口噴き、只見るに、その紅焰焰たる大火、天空に焼き満ち、一つの火雲洞をその煙火以て弥満す。まことに燒天烤地なり。八戒慌てて言う:「哥哥、良からず。この火の中に一たび鑽り入らば、命活くるを望むなかれ。老猪を焼き熟れたるものと為し、香料を加え、尽く彼の享受に任せん。疾く走れ、疾く走れ。」と言うと走るや、彼、行者を顧みず、澗を越えて過ぎ去れり。

この行者は神通広大、避火の訣を捏じ、火の中に突入して、その妖怪を探した。その妖怪は行者が来るのを見て、また数口吐きかければ、その火は先よりも一層盛んになった。見事な火である:

炎々烈々、満空に燃え盛り、赫々威々、地に遍く真っ赤。さながら火輪が上下に飛ぶよう、また炭の粉が東西に舞うよう。この火は燧人氏が木を鑽って取り出した火でもなく、老子が丹を煉る火でもなく、天火でもなく、野火でもなく、妖魔が修練して成し遂げた真の三昧の火である。五つの車は五行に合い、五行は相生じて、火に煉られて成る。肝木は心火を生じて旺んにし、心火は脾土を平らかにする。脾土は金を生じ、金は水に化し、水は木を生ずる能い、徹悟して靈通す。生々化々、全て火に因り、火は長空に遍く、萬物は榮える。妖邪は久しく悟りて三昧の火を呼び出し、永く西方を鎮めて第一名と成る。

孫悟空はその烟火に燻られて四方に飛び騰り、妖怪を見つけられず、洞門の前の路も見えず、已むなく身を翻して火の中から跳出した。その妖精は門の所で明らかに見えており、彼は孫悟空が去ったのを見て、ようやく火具を収め、群妖を率いて洞内に引き返し、石門を閉ざし、自ら勝ちを得たりと思い、手下の小妖に宴を設けて楽を奏させ、笑い歡ばせて止まなかった。

さて、孫悟空は枯松澗を跳び越え、雲頭を下ろすと、猪八戒と沙和尚が松林の間で大声に話しているのが聞こえた。孫悟空は進み出でて八戒を制して言うには「この愚か者め、全く人らしさがない。お前は妖火を怖がって、敗走して逃げ延び、老孫を置き去りにした。幸い我に少しばかりの腕前があったから良いようなものの。」八戒笑って言うには「兄貴よ、お前はあの妖精に言い当てられたぞ、やはり時勢を弁えない。古人が言う『時勢を識る者を、俊傑と謂う』と。あの妖精はお前に親しもうとしないのに、お前は無理に親類を認めようとした。いざ勝負を賭して、あのような無情の火を放ったのに、お前は去らず、なおも彼と戦い続けようとした。」孫悟空言うには「あの怪物の腕前は我に比べて如何に?」八戒言うには「及ばない。」「槍の法は我に比べて如何に?」八戒言うには「それも及ばない。老猪が彼の持ち堪えられぬを見て、助けに一鎚打ち込もうとしたが、思いの外あの奴は鬧れることを知らず、敗れ去るや、天理も無く、火を放ったのだ。」孫悟空言うには「まさに、お前が来るべきではなかった。我がもう数合彼と戦い、好機を窺って一棒を喰らわせれば、それで良かったものを。」

彼ら二人はただひたすらその妖精の手段を論じ、その妖精の火の毒を語り合う。沙和尚は松の根に倚って、笑い呆けていた。孫悟空が見て言うには「兄弟よ、何を笑う?お前には何か手段があって、あの妖魔を擒え、その火の陣を破る術があるのか?この件は、皆の利益になる事でもある。常言に『衆毛は球を攒む』と言う。お前がもし妖魔を拿らえて、師父を救えば、それもお前の一大功績となろう。」沙僧言うには「我にも別に手段は無く、妖魔を降すことも出来ません。我が笑うのは、お前さん方が二人とも慌てふためいているからです。」孫悟空言うには「我がどうして慌てている?」沙僧言うには「あの妖精の手段はお前に及ばず、槍の法もお前に及ばず、ただ火の勢いが少し多いだけなので、勝ちを得られないのです。小弟の考えでは、相生相克の理を用いて彼を拿るのに、何の難しかろうか?」孫悟空これを聞いて、呵呵と笑って言うには「兄弟の言うことは理に適っている。確かに我々は慌てていた。この事を忘れていた。もし相生相克の理論で言えば、水を用いて火を克する必要がある。だが何処にか水を求めて、この妖火を潑ぎ消し、師父を救うことが出来ようか?」沙僧言うには「正にその通りです。躊躇するに及びません。」孫悟空言うには「お前たち二人は只ここに居て、彼と挑戦してはならぬ。老孫が東洋大海へ行き、龍兵を借り求め、水を連れて来て、妖火を潑ぎ消し、この泼怪を捉える。」八戒言うには「兄貴よ安心して行け。我々は心得ている。」

素晴らしい大聖、雲を縦にして此の地を去り、瞬く間に東洋に到着したが、海の景色を觀賞する心も無く、逼水法を使い、波浪を分けた。正に歩む時、巡海の夜叉に行き逢い、撞き合う。彼は孫大聖と見て、急ぎ水晶宮に帰り、その老龍王に報告した。敖広は直ちに龍子、龍孫、蝦兵、蟹卒を率いて一斉に門を出でて迎え、中に請じて坐らせた。坐定まりて後、礼を行い終え、茶を献ず。孫悟空言うには「茶を煩わすに及ばず、一つの事を煩わしたい。我が師父唐僧が西天に往きて仏に拝し経を取る為、號山枯松澗火雲洞を過ぎるに、紅孩児という妖精がおり、聖嬰大王と号して、我が師父を拿去した。老孫が洞の辺りに尋ね至り、彼と交戦するに、彼は火を放った。我々は堪え忍ぶ能わず、水は火を克するを思い、特に此処に来て、いくらかの水を求め、我に大雨を下させ、その火を潑ぎ消し、唐僧の一難を救わんと欲す。」その龍王言うには「大聖よ、お間違いだ。もし雨水を求めんと欲するなら、我に問うべきではない。」孫悟空言うには「汝は四海の龍王、雨水を主管す。来て汝に問わずして、誰に問うべきか?」龍王言うには「我は雨を下すを主管すれども、擅に専断するを敢えず。必ず玉帝が旨を下し、何の処に、幾尺幾寸、何の時辰に起り止むかを吩咐し、尚ほ三官が筆を挙げ、太乙が文を移し、雷公、電母、風伯、雲童と会合せねばならぬ。俗語に『龍は雲無くして行かず』と言う。」孫悟空言うには「我も風雲雷電を用いず、只だいくらかの雨水を得て火を滅さんと欲するのみ。」龍王言うには「大聖が風雲雷電を用いずとも、我一人では力を助ける能わず。我が弟たちをして、共に大聖の一功を助けしめて如何?」孫悟空言うには「汝の弟は何処に居る?」龍王言うには「南海龍王敖欽、北海龍王敖閏、西海龍王敖順。」孫悟空笑って言うには「我が若し更めて三海を遊ばば、上界に往きて玉帝の旨を求むるに如かじ。」龍王言うには「大聖が行くに及ばず、只だ此処にて我が鉄鼓、金鐘を撞けば、彼ら自ずから瞬刻に到らん。」孫悟空聞きて言うには「老龍王よ、速やかに鐘鼓を撞け。」

暫くして、三海の龍王集まり到り、問うて言うには「大哥よ、何の事ありて弟たちを命じ給うや?」敖広言うには「孫大聖此処に在り、雨を借りて力を助け、妖を降さんと欲す。」三弟は直ちに引き入れ、相見すること畢わり、孫悟空は詳しく水を借るの事を説いた。衆神は皆歡喜して従い、直ちに点じ出す:

鮫魚は勇猛にして前部と為り、鰠痴は口大にして先鋒と作る。

鯉元帥は波を翻し浪を跳び、鯁提督は霧を吐き風を噴く。

鯖太尉は東方に哨を打ち、鮊都司は西路に征を催す。

紅眼の馬郎は南面に舞い、黒甲の将軍は北下に衝く。

鯾把総は中軍に号を掌り、五方の兵は処処に英雄。

縦横に機巧なるは鼋枢密、妙算玄微なるは亀相公。

謀有り智有るは鼉丞相、多変多能なるは鼈総戎。

横行する蟹士は長劍を抡ね、直跳する蝦婆は硬弓を扯く。

鮎外郎は文簿を查明し、龍兵を点じて波中を出でしむ。

詩有りて証と為す。詩に曰く:

四海龍王は功を助くるを喜び、斉天大聖は相従うを請う。

只だ三藏の途中の難に因り、水を借りて来たりて紅火を滅ぼさんと。

その孫悟空は龍兵を領し、間も無く、早くも號山枯松澗の上に到る。孫悟空言うには「敖氏の兄弟よ、遠路を労せり。此処が即ち妖魔の所なり。諸君は暫く空中に停まり、頭面を露わすこと莫れ。老孫をして彼と賭闘せしめ、若し彼に勝たば、諸君の捉拿を須たず。若し彼に輸かば、諸君の助陣をも用いず。只だ彼が一旦火を放たば、我が呼喚を聴き、一斉に雨を噴け。」龍王たちは皆号令に依った。

孫悟空は却って雲頭を下ろし、松林の中に入り、八戒と沙僧に会い、一声呼んで言うには「兄弟よ。」八戒言うには「兄貴の来たるは早いな。既に龍王を請うたか?」孫悟空言うには「皆来ている。お前たち二人は切に小心せよ、雨が大きいかも知れぬ、行李を湿らせぬよう。老孫が彼と打ちに行く。」沙僧言うには「師兄よ安心して行かれよ。我々は皆心得ている。」

孫悟空は澗を跳び越え、門前に到り、叫んで言うには「門を開けよ!」その小妖たち又報じて言うには「孫行者又来たりぬ。」紅孩児は仰ぎ見て笑って言うには「あの猴子は火の中に焼かれずに済んだと思い、故に又来たのであろう。此度は決して赦すまじ、必ず皮焦れ肉爛れて止まん。」急ぎ身を縦にし、長槍を挺し、叫んで言うには「小的たちよ、火の車を押し出せ。」彼は門前に出で、孫悟空に言うには「汝又来て何を為す?」孫悟空言うには「我が師父を返せ。」その怪言うには「この猴頭よ、余りに通変せず。あの唐僧は汝に師父と為るも、我にも下酒菜と為る。汝が彼を得んと欲するは、思いも寄らぬ、思いも寄らぬ。」孫悟空これを聞き、甚だ怒り、金箍棒を掣出し、頭を劈いて打つ。その妖精は火尖槍を使い、急ぎ相迎う。此の一場の賭闘、以前と同じからず。見事なる一戦である:

怒り髪を逆立てた妖魔、焦る猴王の将。この者は経を取る僧を救うために来たが、あの者は唐三藏を喰らおうとしている。心変わりして情愛もなく、情が薄れて義も譲らず。この者は生きたまま皮を剥いでやろうと恨み、あの者は生のまま醬油に漬けてやろうと欲する。実にこれぞ英雄、まさに猛々しく強い。棒を打ち込めば槍で受け止めて勝負を競い、槍を突き出せば棒で迎え撃って上下を争う。手を挙げて打ち合うこと二十合、両者の技倆は同じようであった。

その妖王は行者と二十合戦ったが、勝てないと見るや、槍を虚ろに振って急に身を引き、拳を握り、また鼻を二度捶いて火を噴き出した。門前の車から煙火が迸り、口や目から赤い炎が飛び騰がる。孫大聖は振り返って叫んだ。「龍王はどこにいる?」その龍王兄弟は衆の水族を率いて、妖精の火光に向かって雨を降らせた。見事な雨!まことに:

瀟瀟洒洒、密密沈沈。瀟瀟洒洒、天辺に墜ちる星辰の如し;密密沈沈、海口に懸かる浪の逆巻くが如し。初めは拳大の如く、次第に瓮や盆を傾けるように。地に満ちて流れるは鴨の頂きの緑、高山を洗い出して仏頭の青とす。溝壑には水飛んで千丈の玉、澗泉には波漲りて万条の銀。三叉の路は見る間に満ち、九曲の溪は次第に平らぐ。これは唐僧に難ありて神龍が助け、天河を引き倒して下に傾ける。

その雨は淙淙と降り注いだが、大小の別なく、妖精の火勢を止めることはできなかった。元来、龍王の私雨は、凡間の火を消すのみ。妖精の三昧真火をどうして消せよう?まさに火に油を注ぐが如く、ますます燃え盛るばかりであった。

大聖が言うには、「俺が印を結んで、火の中に飛び込もう。」彼は鉄棒を振るい、妖精を探して打とうとした。その妖精は彼が来るのを見て、一口の煙を面に向かって吹きかけた。行者は慌てて振り返ったが、煙に燻されて目がくらみ、涙が雨のように零れるのを堪えられなかった。元来この大聖は火は恐れぬが、煙だけは恐れる。昔、天宮を大いに騒がせた時、老君に八卦炉の中に入れられて鍛えられたが、幸いにも巽の位に身を落ち着けて、焼け死ぬことはなかった。ただ風が煙を巻き上げて、彼を火眼金睛に燻したので、今に至るまで煙だけは恐れるのだ。その妖精がまた一口吹きかけると、行者は堪えきれず、雲頭に乗って逃げ去った。その妖王はまた火具を収めて、洞府に戻った。

この大聖は一身に煙火を浴びて、燥熱に耐えかね、まっすぐに澗の水に飛び込んで火を消そうとした。ところが冷水に一気に浴びせられて、火気が心に攻め込み、三魂が体外に抜け出た。哀れ、彼は気が胸に塞がり、喉や舌は冷たく、魂は飛び散り魄は散って、命を落とした。慌てて四海の龍王は半空に雨水を収めて、高声に叫んだ。「天蓬元帥、巻簾将軍、林中に隠れているな。早くお前たちの師兄を探し出せ。」

八戒と沙僧は誰かが自分の聖号を呼ぶのを聞いて、急いで馬を解き、担子を担いで、林を駈け出し、泥濘も顧みず、澗の辺りに沿って探した。すると上流のほうで波が逆巻き、急流の中から一人の者が流れ下ってきた。沙僧はそれを見て、衣のまま水に飛び込み、岸に抱き上げると、それは孫大聖の身体であった。ああ!見よ、四肢は縮み上がって開かず、全身は冷たく氷のよう。沙和尚は両眼に涙を浮かべて言った。「師兄、惜しいことだ。億万年も老いず長生する客が、今や中途で短命の人となった。」八戒は笑って言った。「兄弟よ、泣くな。この猿は死んだふりをして、我々を脅かしているのだ。お前は彼の胸の前を撫でてみよ、まだ少しでも熱気があるか?」沙僧が言うには、「全身が冷えてしまった。たとえ少し熱気があっても、どうして生き返らせられよう?」八戒が言うには、「彼は七十二般の変化を持つゆえに、七十二条の命がある。お前は彼の足を掴め。俺が彼を弄ってみせる。」果たして沙僧は足を掴み、八戒は頭を支えて、彼を引き伸ばし、足を起こして盤膝に坐らせた。八戒は両手をこすって熱くし、彼の七竅を覆って、按摩禅法を施した。元来その行者は冷水に一気に迫られて、気が丹田に塞がり、声が出せなかった。幸いにも八戒が按摸揉擦したおかげで、しばらくして気が三関を通り、明堂に転じ、孔竅を衝き開けて、一声叫んだ。「師匠よ!」沙僧が言うには、「兄よ、お前は師匠のために生まれ、死してもなお口に掛けている。早く目を覚ませ、我々はここにいる。」行者は目を開けて言った。「兄弟たちはここにいるのか?老孫は痛い目にあった。」八戒が笑って言うには、「お前はさっき気絶していた。もし老豚がお前を救わなければ、とっくに終わっていたぞ。まだ礼を言わぬのか。」

行者はようやく立ち上がり、仰向いて言った。「敖氏兄弟はどこにいる?」その四海龍王は半空の中で答えた。「小龙どもがここで伺候しております。」行者が言うには、「遠路はるばる来てもらって、功を成せなかった。先に帰ってくれ、後日改めて礼をする。」龍王は水族を率いて、浩浩蕩々と帰って行った。それはさておき。

沙僧は行者を支えて、共に松林の下に来て坐った。しばらくして、気を鎮め息を整えたが、涙が頬に滴るのを止められなかった。また叫んだ。「師匠よ!

当年大唐を離れし時を思い起こせば、

岩の前で我を救い災殃を逃れし。

三山六水に魔障に出会い、

万苦千辛に肝腸も痛み断たる。

鉢を托して化を乞い人の厚薄に従い、

禅に参じ夜に宿るは林か庄か。

一心に正果を成すを願いしが、

今日どうして痛くも傷を受くるを知らん。」

沙僧が言うには、「兄よ、まず煩うな。早く計略を考えて、あそこへ兵を請いに行き、師匠を救い出そう。」行者が言うには、「どこへ救兵を請いに行くのか?」沙僧が言うには、「昔、菩薩がお告げになった、我々に唐僧を護れと。彼は曾て許したのだ。天に呼べば天が応じ、地に呼べば地が応じる。どこへ救兵を請いに行くのか?」行者が言うには、「思い起こせば、昔老孫が天宮を大いに騒がせた時、あの神兵たちも我を止められなかった。この妖精の神通は小さくない。必ずや老孫よりも手強い者でなければ、彼を降伏させられぬ。天神も効かず、地煞も効かぬ。この妖魔を捕らえるには、必ずや観音菩薩を請うのが良い。しかし我は皮肉が痺れ、腰膝が痛み、筋斗雲を駕すこともできぬ。どうして請いに行けよう?」八戒が言うには、「何か言い付けがあれば、我が行って請おう。」行者は笑って言った。「よし、お前が行けるならば。もし菩薩にお目にかかったならば、決して顔を上げて見るな。ただ頭を下げて礼拝せよ。彼女が問うのを待って、地名と妖名を告げ、師匠を救うことを請うのだ。彼女がもし来る気になれば、必ずや怪物を捕らえられよう。」八戒はこれを聞いて、すぐに雲霧に乗って、南へと去って行った。

さて、その妖王は洞の中で得意げに言った。「小どもたち、孫行者は痛い目に遭って逃げた。この一戦で彼を殺しはしなかったが、せめて気絶させたのは確かだ。おや?また救兵を請いに行くのではないか。早く門を開け、私が誰を請いに行くのか見てこよう。」

衆の妖は門を開け、妖精は空中に飛んで見ると、八戒が南へと向かっているのが見えた。妖精は南の方には他にない、必ずや観音菩薩を請いに行くのだと考えた。急いで雲頭を下ろして、叫んだ。「小どもたち、私の皮袋を探し出せ。久しく使わなかったので、口の縄がしっかりしていないかもしれぬ。新しいものと替えて、二門の下に置け。私が八戒を騙して連れ戻し、袋に詰めて、柔らかくなるまで蒸かし、お前たちにご馳走しよう。」元来その妖精には如意の皮袋があった。衆の小妖はそれを出し、口の縄を替えて、洞門の内に置いた。それはさておき。

さて、その妖王は久しくこの地に住み、皆よく知った場所である。南海へどの道が近く、どの道が遠いかを知っていた。彼は近道から雲頭に乗って、八戒を追い越し、険しい山岩の上に端座して、偽りの観音の姿に変じ、八戒を待ち構えていた。

その呆者(おろかもの)は雲に乗って進んでいるうちに、ふと観音様を見かけた。彼に真偽の見分けがつくはずもなく、これぞまさに「仏像を見て仏と為す」というものである。呆者は雲を止めてひれ伏し申し上げた。「菩薩様、弟子の猪悟能がお目通りを願い、頭を下げております」。すると妖精が言う。「お前は三蔵法師を守って経を取りに行くのではなかったのか。我に会って何の用だ?」。八戒が答えた。「弟子は師匠と共に道中、号山枯松澗火雲洞に紅孩児という妖精がいる所に差し掛かり、彼に師匠を捕らえられてしまいました。弟子と兄貴分たちが乗り込んで戦いを挑みましたが、奴は火を放つ術を持っており、初戦は勝てませんでした。第二戦では龍王に雨を降らせてもらいましたが、火を消すこともできず。兄貴分は奴の火に焼かれて動けなくなり、弟子が菩薩様を呼びに遣わされたのです。どうか御慈悲をお掛けくださり、我が師匠の難をお救い下さいませ」。妖精が言う。「その火雲洞の洞主は、生き物を殺すような者ではない。必ずやお前たちの方から彼に突っかかったのだろう」。八戒が言う。「弟子は突っかかりなどしておりません。兄貴分の孫悟空が彼を怒らせたのです。あの者は子供に化けて木に吊るされ、我が師匠を試しました。師匠はとても慈悲深く、私に解かせ、兄貴分にしばらく背負わせました。すると兄貴分が彼を地面に投げつけたため、奴が風を起こして師匠を連れ去ったのです」。妖精が言う。「お前、立ち上がれ。我に従って洞の中へ入り、洞主に会うのだ。我がお前に代わって取りなしてやろう。お前が謝罪すれば、師匠を出してもらえるかもしれぬ」。八戒が言う。「菩薩様、もし我が師匠を返して下さるというなら、頭を下げるくらい何でも致します」。妖王が言う。「では、我に従え」。

この呆者は事の善悪もわからず、ただその後について行き、元来た道を真っ直ぐ戻った。南洋海へ向かうことなく、直接火雲門へと至り、やがて門口に着いた。妖精が中へ入りながら言う。「お前、疑うな。彼は我が旧知の者だ。入って来い」。呆者はやむなく足を踏み入れた。すると大勢の小妖たちが一斉に鬨の声を上げ、八戒を捕らえて袋に詰め、口の縄を固く縛り、高く梁の上に吊るした。妖精は元の姿を現し、中央に座って言った。「猪八戒、お前ごときが何の能があって、三蔵法師を守って経を取りに行こうなどと言うのだ? よくもまあ、菩薩を呼んで我を降そうなどと考えたものだ。その両の目を大きく開けても、我が聖嬰大王だと見分けもつかぬか。今お前を捕らえたからには、三、五日吊るしておいて、蒸し上げて小妖たちに振る舞い、つまみにでもしてやろう」。八戒はこれを聞いて、袋の中で罵った。「このクソ化け物め! この上なく無礼だ。どうにかして我を食らおうと企んでいるが、思い知らせてやる。お前ら一人残らず頭の腫れ物で苦しませてくれるわ!」。呆者は罵り続け、喚き続けたが、それはさておき。

さて、孫大聖と沙僧が座っていると、一陣の腥風(生臭い風)が顔を打って過ぎた。行者はくしゃみを一つして言った。「いかん、いかん! この風は凶と出るに決まっている。おそらく猪八戒が道を間違えたのだろう」。沙僧が言う。「道を間違えたなら、人に尋ねれば良いのでは?」。行者が言う。「おそらく妖精に出くわしたのだ」。沙僧が言う。「妖精に出くわしたなら、走って戻って来れば良いでしょう?」。行者が言う。「様子がおかしい。お前はここに座って見張っていろ。俺があの谷川を飛び越えて探りを入れて来る」。沙僧が言う。「兄貴分は腰が痛い。また奴の手に掛かるのが落ちでしょう。ここは小弟が行きましょう」。行者が言う。「お前では役に立たぬ。やはり俺が行く」。

良い行者である。歯を食いしばり、痛みを堪え、鉄の棒を握りしめて、谷川を渡り、火雲洞の前に至り、「このクソ化け物め!」と叫んだ。門番の小妖がまた急いで中へ報告した。「孫行者がまた門口で叫んでおります」。妖王が捕らえよと命令を下す。あの小妖たちが刀槍をひけらかし、一斉に鬨の声を上げ、すぐに門を開け、「捕らえろ、捕らえろ」と叫んだ。行者は確かに疲れ切っており、戦いを挑むのを避け、身を道端に潜ませ、呪文を唱えて、「変!」と言うと、金彩を施した包みに変身した。小妖が見つけて中へ持ち込み、「大王、孫行者は怯えております。我々が『捕らえろ』と一声叫んだだけで、慌てて包みを投げ捨てて逃げました」と報告した。妖王は笑って言った。「その包み、大した宝が入っているわけでもあるまい。高々、坊主の古びた衣や使い古しの帽子くらいのものだ。背負って中へ入れ、ほどいて洗い、補修の当て布にでもするが良い」。一人の小妖が確かにその包みを背負って入った。それが行者が変身したものとは知る由もない。行者は思った。「よし、この金彩の包みは背負われたぞ」。あの妖精はそれを大したこととも思わず、門の内側に放り出した。

良い行者である。偽りの中に更に偽りを重ね、虚の中にまた虚を弄ぶ。すなわち、一本の毛を抜き、息を吹きかけて仙術を施し、同じ包みに変えた。彼の真の身はまた一匹の蠅に変わり、門の蝶番に止まった。すると八戒がそこで「うー、うー」と呻いているのが聞こえた。声ははっきりせず、まるで疫病にかかった豚のようである。行者は「ぶうん」と飛んで行き、彼を探すと、皮袋の中に吊るされていた。行者が皮袋に止まると、また彼が悪態をついて、妖怪のあれこれを罵っているのが聞こえた。「よくもまあ、観音菩薩に化けて、俺を騙して連れ戻し、ここに吊るし、食ってやるなどと言ったな。いつか我が兄貴分が来てくれれば、

大いに斉天の無量の法を展べ、山中の化け物どもを即座に捕らえ、

皮袋を解いて我を放ち出し、お前を千回も耙で突き刺して溜飲を下げるものを。」

行者はこれを聞いて、心の中で笑った。「この呆者は、ここで悶々としているとはいえ、旗を倒してはいないようだ。老孫は必ずこの化け物を捕らえねばならぬ。そうしなければ、どうして恨みを晴らせよう」。

ちょうど八戒を救い出そうと考えていると、妖王が叫ぶ声が聞こえた。「六健将、いるか?」。その時、六人の小妖がいた。彼らは彼の腹心の精霊で、健将に封じられており、皆名前があった。一人は雲裏霧、一人は霧裏雲、一人は急如火、一人は快如風、一人は興烘掀、一人は掀烘興という。六健将が前に進み出てひざまずく。妖王が言う。「お前たちは、我が父上の家を知っているか?」。六健将が言う。「存じております」。妖王が言う。「お前たちは、すぐに夜を徹して父上を我が所へお連れしろ。ここに唐僧を捕らえたと伝え、蒸し物にして差し上げ、寿命を千年と延ばすのだと申し上げよ」。六匹の化け物は命令を受け、互いに手を引き合いながら、まっすぐ門外へと出て行った。行者は「ぶうん」と一声、袋から飛び降り、その六匹の化け物に付き従い、洞の中を離れて隠れた。

はてさて、どのようにして招きに行くのか、それは次回の説明を待たれよ。