第五十三回 禅主吞餐懐鬼孕 黄婆運水解邪胎
第五十三回 禅主が食を呑みて鬼胎を懐き 黄婆が水を運びて邪胎を解く
德行は八百を修すべく、陰功は三千を積むべし。物我と親冤を均しく平らにす。始めて西天の本願に合う。魔兎刀兵も怯えず、空しく水火の無きに労す。老君降伏して却って天に朝す。笑いて青牛を牽きて転ずる。
話に、かの大路の傍らに叫ぶ者は誰ぞ。元来は金兜山の山神、土地、紫金の鉢盂を捧げて叫びける、「聖僧よ、この鉢盂の中の飯は、孫大聖が良い人家より化けて来たるものなり。汝ら良言に聴かず、誤って妖魔の手中に陥り、大聖をして万端の労苦を為さしめ、今日やっと救い出されたり。暫し来たりて飯を食い、道を進むべし。孫大聖の一片の恭敬孝顺の心を辜することなかれ。」三蔵曰く、「徒弟よ、万分に汝に虧く、感謝尽きず。早くに圏痕を出でざれば、何ぞこの殺身の禍あらん。」行者曰く、「師父に隠さず申すに、ただ汝が我が圈子を信ぜざりしゆえに、却って人の圈子を受けしむるに至れり。多少の苦楚、嘆ずべし、嘆ずべし。」八戒曰く、「如何にして又圈子あるや。」行者曰く、「皆な汝この多嘴多舌の愚か者のゆえに、師父をしてこの一場の大難に遭わしめ、老孫をして天翻地覆せしめ、天兵、水火と仏祖の丹砂を請うも、全てかの妖怪の一つの白森々たる圈子にて套取されぬ。如來仏祖は羅漢に暗示し、老孫にかの妖怪の根由を説き、やっと太上老君を請いて収伏せしむ。元来は青牛の怪を為すなり。」三蔵聞きて、感激尽きず、曰く、「賢徒よ、今回この事を経て、次回は必ず汝の吩咐に従わん。」
是に於いて四人、かの飯を分かち食う。その飯、熱気騰々たり。行者曰く、「この飯は久しきに及ぶに、何ぞ尚熱きや。」土地跪きて曰く、「小神、大聖の功行の円満せるを知り、剛に熱して伺候せしなり。」程なく飯を食い終わり、鉢盂を収め、土地、山神に別れ、師父やっと鞍に攀じ馬に上り、高山を過ぐ。正に是く、慮を滌ぎ心を洗いて正覚に帰し、風を餐み水に宿りて西に向かいて行く。
行くこと久しく、又早春の天氣に遇う。聞くもの是く、
紫燕の呢喃、黄鹂の𪾢睆。紫燕の呢喃は香嘴困り、黄鹂の𪾢睆は巧音頻なり。満地の落紅は錦を布くが如く、遍山の翠は茵を堆くが似し。嶺上の青梅は豆を結び、崖前の古柏は雲を留む。野潤いて煙光淡く、沙暄くして日色曛なり。幾處の園林花蕊を放ち、陽回りて大地柳芽新たなり。
正に走る時、忽然として一道の小河に遇う。澄澄たる清水、湛湛たる寒波。唐長老馬を勒めて観看すれば、遠く遠く河の彼方に柳陰碧を垂れ、微かに幾間の茅屋を露出す。行者遠く指してその處を曰く、「かの人家は、必ずや渡し守なり。」三蔵曰く、「我もその處を之く如く観るも、船を見ず、敢えて口を開かず。」八戒行李を放下し、高声に叫びて曰く、「渡し守よ、船を撑して来たれ。」幾度か叫ぶに、只だかの柳陰の中より、咿咿哑哑として一隻の船を撑し出し、程なく此の岸に近づく。師徒等、仔細にその船を看る。真に是く、
短き桨波を分け、軽き桡浪を泛かぶ。船篷は油漆彩絵し、船板は満平に倉す。船頭には鉄の纜盤窩し、船後には舵楼明亮なり。一葉の舟と雖も、泛湖浮海に劣らず。錦纜牙樯無しと雖も、確かに松桩桂桨有り。万里の神舟には如かずと雖も、真に一河の隔たりを渡すべし。往来は只だ両岸の辺に在り、出入は古渡口を離れず。
その船程なく岸に靠く。かの船夫叫びて曰く、「河を渡る者、此処に来たれ。」三蔵馬を縦て近づき前に看る時、かの船夫の何の模樣ぞや。
頭には錦絨の帕を裹み、足には黒糸の鞋を踏む。身には百納の綿裆の襖を穿ち、腰には千針の裙布の帯を束ぬ。手腕の皮粗く筋力硬く、眼花み眉皺みて面容衰う。声音嬌細にして鶯の囀るが如く、近く観れば乃ち老婦人なり。
行者船辺に近づきて曰く、「汝は渡し守か。」かの婦人曰く、「是なり。」行者曰く、「艄公何ぞ在らずして、却って艄婆船を撑すや。」婦人微笑して答えず、手を以て跳板を拖く。沙和尚行李を挑みて上せ、行者師父を扶けて跳板に上らせ、順序を逐いて過ぎて船に來る。八戒白馬を牽き入れ、跳板を収む。かの婦人船を撑し開き、桨を摇り動かし、程なく河を過ぐ。西岸に登り、長老沙僧に叫びて包袱を解き、幾文の銭鈔を取らせて彼女に与う。婦人更に多少を計らず、繋船の縄を水辺の木の杭に繋ぎ、笑いながら直ちに村庄の屋裏に進み入る。
三蔵その水の清きを見て、一時に口渇し、便ち八戒に吩咐す、「鉢盂を取り、些かの水を舀りて我に飲ましめよ。」かの呆子曰く、「我も正に飲まんと欲す。」即ち鉢盂を取り、一鉢を舀り、師父に与う。師父飲むこと一小半、尚大半を残す。呆子受け取り、一気に飲み干し、而して三蔵を服侍して馬に上らす。師徒等路を尋ねて西行す。半個時辰に及ばず、かの長老馬上に呻吟して曰く、「腹疼し。」八戒随いて曰く、「我も些か腹疼し。」沙僧曰く、「想うに冷水を飲みしが故ならん。」言い終わらざるに、師父叫びて曰く、「疼くこと甚だし。」八戒も曰く、「疼くこと甚だし。」彼の両人疼痛耐え難く、漸く腹大いになる。手を以て摸る時、血団肉塊有るが如く、止まず骨突骨突と乱動す。三蔵正に舒服ならざる時、忽然として路傍に一軒の人家を見る。樹の梢に二つの草把を挑げたり。行者曰く、「師父よ、善し、かの處は酒を売る人家なり。先ず化けて些かの熱湯を得て汝に飲ましめ、便ち問うて薬を売る者あるや否やを尋ね、一帖の薬を討ち来たりて、汝が腹疼を治さん。」
三蔵聞きて大いに喜び、即ち馬を打ちて前行す。程なく村舎の門口に至り馬を下る。只だかの門外に一箇の老婆婆有り、草墩に端坐して麻を績む。行者上前し、一箇の問訊を打ちて曰く、「婆婆よ、貧僧は東土大唐より来たる者なり。我が師父は唐朝の御弟、河を過ぎて河水を飲みしゆえ、腹疼を覚ゆ。」かの老婆婆喜哈哈として曰く、「汝ら彼方の河の水を飲めるや。」行者曰く、「是く此の東辺の清水河に於いて飲めり。」かの老婆婆欣欣として笑いて曰く、「好耍子、好耍子。汝ら皆な入り来たれ、我汝らに説かん。」
行者即ち唐僧を攙い、沙僧八戒を扶け、両人声々叫喚し、腹を挺て、一々只だ疼いて面黄く眉皺み、草屋に入り坐下す。行者只だ叫びて曰く、「婆婆よ、必ず些かの熱湯を焼きて我が師父に与えよ、我汝に謝せん。」かの婆婆且つ湯を焼かず、笑唏唏として後辺に走り、叫びて曰く、「汝ら来たり看よ、汝ら来たり看よ。」かの裏辺に蹼𨁃蹼踏として又二三人の半老不老の婦人を走出し、皆な来たりて唐僧を望み哂笑す。行者大いに怒り、一喝し、牙を一龇す。嚇されてかの一家子跌跌撞撞として、後に往きて走る。行者上前し、かの老婆子を扯りて曰く、「速やかに湯を焼け、我汝を赦さん。」かの婆子戦兢兢として曰く、「爷爷よ、我湯を焼くも事に叶わず、彼の両人の腹疼を治す能わず。我を放したまえ、我説くを待て。」行者彼女を放す。彼女曰く、「我此地は西梁女国なり。我が一国は全て女人、更に男子無し、故に汝らを見て歓喜す。汝が師父の飲みし水は良からざるなり。かの河の名を子母河と謂う。我が国王城外に、又迎陽館駅有り。駅門外に照胎泉有り。我此地の人、年二十歳以上に及びて、始めて敢えてかの河の水を飲む。水を飲みし後、便ち腹疼を覚え胎有りと為す。三日を到りし後、かの迎陽館の照胎水の辺に行きて照す。若し双影を照し出ださば、便ち孩児を降生す。汝が師父子母河の水を飲みしに因り、故に胎気を成し、久しからずして子を生まんとす。熱湯、何ぞ治すること能わん。」
三蔵はこれを聞いて、真っ青になって言った。「徒弟よ、こうなったらどうすればよいのだ?」八戒は腰をくねらせ、股を張って呻いた。「おいおい、産むとなると、我々は男の身だ、産門が開くはずもない。どうやって出てくるというのだ?」孫悟空は笑って言った。「昔の人は言う、『瓜熟して自ずから落ちる』と。もしその時が来れば、必ず脇の下に裂け目ができて、そこから這い出てくるだろう。」八戒はこれを聞いて、ぶるぶる震え、痛みに耐えかねて言った。「もう駄目だ、駄目だ、死んだ、死んだ。」沙悟浄は笑って言った。「二哥、無理に動くな、無理に動くな。産みの腸を間違えて、胎前の病にでもなったら大変だ。」あの鈍い者はますます慌て、目に涙を浮かべて、行者を引っ張りながら言った。「兄貴、この婆さんに聞いてくれ、どこか手際の良い産婆がいないか、先に何人か探しておいてくれ。この半時、陣痛が激しくなってきたようだ。催陣の痛みだ、もうすぐだ、もうすぐだ。」沙悟浄はまた笑って言った。「二哥、催陣の痛みが分かっているなら、動いてはいけない。破水してしまうといけないからな。」
三蔵は呻いて言った。「婆さんよ、ここには医者はいるか? 私の徒弟に堕胎薬を一服買って来させて、飲んで胎児を下ろしたいのだ。」老婆は言った。「たとえ薬があっても効きはしない。ただ、この街の真南に解陽山という山があり、その中に破児洞という洞窟があって、洞の中に落胎泉という泉がある。その泉の水を一口飲めば、胎気が解けるのだ。だが、今はその水を手に入れられない。何年か前、一人の道士が現れ、如意真仙と名乗り、あの破児洞を聚仙庵と改め、落胎泉を守って、ただでは人に与えようとしない。水を求める者は、必ず花紅の礼品や羊酒、果物の盛り合わせを用意し、誠心誠意を尽くして捧げ、初めて拝んで一碗の水を得られるのだ。お前たちのような行脚の僧に、そんな金があるはずもない。運を天に任せ、時が来て産むのを待つよりほかあるまい。」行者はこの話を聞いて、満面に喜びを浮かべて言った。「婆さん、ここからあの解陽山まではどれほどの道のりだ?」婆さんは言った。「三十里だ。」行者は言った。「よし、よし。師匠、ご安心ください。老孫が水を取って来て飲ませてあげましょう。」
素晴らしい大聖は、沙悟浄に言いつけた。「お前はしっかりと師匠を見守っていろ。もしこの家の者が無礼を働き、師匠を欺いたり騙したりしたら、以前の手を使って、凶暴な様子を見せて脅かせ。俺が水を取りに行く。」沙悟浄は命を受けた。すると老婆は大きな瓦の鉢を出して来て、行者に渡しながら言った。「この鉢を持って行きなされ。どうかたくさん取って来て、こちらにも残して置いて、急な時に備えさせておくれ。」行者は本当に瓦鉢を受け取り、草屋を出て、雲に乗って去って行った。老婆はようやく空に向かって拝礼して言った。「おお、神様よ! この僧は雲に乗るとは。」そして中に入り、数人の女たちを呼び出して、三蔵に頭を下げ拝礼させ、皆して彼を羅漢菩薩と呼んだ。一方で湯を沸かし飯を炊いて、三蔵をもてなした。それはさておき。
さて、孫大聖は筋斗雲に乗って、しばらくすると、一つの山頂が雲の足を遮った。そこで雲の光を押さえ、目を開いて見ると、何と立派な山であろうか。見れば、
幽かな花は錦のように敷き詰められ、野の草は青い絨毯のように広がる。山の谷川は流れ連なり、谿の雲は悠々としている。幾重もの谷や壑には藤や蘿が茂り、遠くの峰々には木々が多く茂る。鳥は鳴き雁は過ぎ、鹿は水を飲み猿は攀じる。翠の山並みは屏風のように、青い崖は髷のように聳える。埃は滾々と立ち、真に到り難く、泉は流れ流れて見るに飽かぬ。時折、仙童が薬草を採りに行くのを見かけ、常に樵夫が薪を背負って帰って来るのに出会う。果たして天台山の景色に劣らず、西華山の三峰に勝る。
この大聖が山を眺めていると、また日陰の場所に一つの荘園があるのが見え、突然犬の吠える声が聞こえた。大聖は山を下り、まっすぐに荘園へと向かったが、これもまた良い場所であった。見れば、
小橋は流れる水に通じ、茅屋は青い山に寄り添う。
村の犬は籬の辺りで吠え、幽かな人は自ら行き来する。
やがて門前に着くと、一人の老道人が青い草の上に胡坐をかいているのが見えた。大聖は瓦鉢を置き、進み出て礼をして問訊した。その道人は身を起こして礼を返し言った。「どこから来られたのか。小庵に何の用で?」行者は言った。「貧僧は東土の大唐より、勅命を奉じて西天に経を取りに行く者です。私の師匠が誤って子母河の水を飲んだため、今や腹が痛み、腫れ上がって堪え難いのです。土地の人に問いましたところ、胎気が結ったもので、薬では治せないとのこと。解陽山の破児洞に落胎泉があり、胎気を消すことができると聞き及んで、特に如意真仙を訪ね、泉の水を求め、師匠の難儀を救おうと参った次第です。どうか老道、道をお示し下さい。」その道士は笑って言った。「ここが破児洞で、今は聚仙庵と名を改めておる。私は他ならぬ、如意真仙様の大弟子だ。お前の名は何と言う? 代わりに取り次いでやろう。」行者は言った。「私は唐三蔵法師の大弟子、名を孫悟空と申す。」道士は尋ねて言った。「お前の花紅や酒礼はどこにある?」行者は言った。「私は通りすがりの掛け僧だ。そのようなものは用意していない。」道士は笑って言った。「お前は本当に間抜けだ。我が老師父は山泉を守っておられ、ただで人に与えたことは一度もない。お前は戻って礼品を用意して来い。そうすれば取り次いでやろう。さもなければお引き取り願おう。考えるな、考えるな。」行者は言った。「人情は聖旨よりも大きい。我が老孫の名を告げれば、彼は必ずや情けをかけてくれるだろう。もしかすると井戸ごと譲ってくれるかもしれぬ。」
道士はこの言葉を聞いて、やむを得ず中に入って取り次いだ。すると真仙がちょうど琴を弾いているところで、琴を弾き終わるのを待ってから言った。「師匠、外に一人の坊主が来ております。自ら唐三蔵の大弟子、孫悟空と名乗り、落胎泉の水を求めて、その師匠を救いたいと申しております。」真仙はこれを聞かなければよかったが、悟空の名を聞くや否や、たちまち怒りが心の底から湧き起こり、悪意が胸の辺りに激しく立ち昇った。急いで立ち上がり、琴台を下り、普段着を脱ぎ、道服に着替え、如意の鉤を取り出し、庵の門を飛び出して叫んだ。「孫悟空はどこだ?」行者が振り返ると、その真仙の装いが見えた。
頭には星冠が輝き光彩を放ち、身には紅の金縷の法衣をまとう。
足下の雲鞋には錦が堆く刺繍され、腰の宝帯は玲瓏と巡る。
一足の織錦の凌波の袜、半ばに裙襴が露わになり繍の絨が煌めく。
手には如意の金の鉤を持ち、鉤先は鋭く柄は長く蟒の龍の如し。
鳳眼は光り輝き眉は立ち、鋼の牙は鋭く口は紅く反り返る。
頤の下の髭は烈火の如く揺れ動き、鬢の辺りの紅い髪は短く蓬としている。
その様は凶悪で温元帥の如く、ただ衣冠だけが異なっている。
行者はこれを見て、合掌して礼をし言った。「貧僧が孫悟空です。」その先生は笑って言った。「お前が本当に孫悟空か、それとも名前を騙っているのか?」行者は言った。「先生のおっしゃる言葉はおかしい。常言に『君子は行きて名を変えず、坐して姓を改めず』という。私はまさしく悟空だ。名前を騙る道理があろうか?」先生は言った。「お前は私を知っているか?」行者は言った。「私は仏門に帰依し、誠心をもって仏教を修行しておりますので、このところ山を越え水を渡るうちに、幼い頃の友達とも疎遠になり、訪ねる暇もなく、そのため尊顔を存じ上げませんでした。先ほど道を尋ねた際、子母河のほとりの田舎者が先生を如意真仙と申しておりましたので、それで初めて知った次第です。」その先生は言った。「お前はお前の道を行き、私は我が真を修める。お前が私の所に来て何の用だ?」行者は言った。「私の師匠が誤って子母河の水を飲み、腹が痛んで胎気となってしまいましたので、特に仙府を訪れ、一碗の落胎泉の水を拝み求め、師匠の危難を救おうと参ったのです。」
その先生は目を怒らせて言った。「お前の師匠は唐三蔵か?」行者は言った。「そうです、そうです。」先生は歯を食いしばって言った。「お前たちは聖嬰大王という者に会ったことはあるか?」行者は言った。「それは号山の枯松澗、火雲洞の紅孩児という妖怪の綽名です。真仙はなぜ彼をお尋ねになるのですか?」先生は言った。「彼は私の甥だ。私は牛魔王の弟である。先頃、我が兄のところから手紙が来て知らせてよこした。唐三蔵の大弟子、孫悟空という奴が憎たらしいことをして、彼を害したと。私はここでお前に復讐する機会を探していたところだ。お前の方から出向いて来たからには、水など望むな。」行者は愛想笑いを浮かべて言った。「先生のお間違いです。あなたの兄はかつて私の友であり、幼い頃に七人兄弟の契りを結んだこともあります。ただ、先生のお宅がどこにあるか存じ上げず、訪ねて来なかっただけです。今やあなたの甥は良い身分になり、観音菩薩に従って善財童子となりました。我々は彼に及ばないほどです。どうしてかえって私を責めるのですか?」
先生が喝して言う、「この泼猴め!まだ巧言を弄するか。わが甥が自由自在に大王をしている方が良いのか、それとも他人に奴隷になるのが良いのか?無礼を働くな、この一钩を受けよ!」大聖は鉄棒で受け止めて言う、「先生、打つ話はやめて、先に泉水を少しください。」その先生は罵って言う、「泼猴め!生死も知らぬ。もしお前が三合以内にわしに勝てば、水をやろう。勝てなければ、お前を挽き肉にして、ようやくわが甥の仇を討つ。」大聖は罵って言う、「この恩知らずの孽障め!打つというなら、脇に退いて棍を見よ。」その先生は如意鉤を振りかざして応戦する。二人は聚仙庵で激しく戦う:
聖僧は誤って胎の水を飲み、行者は如意仙を探しに行く。真仙が実は怪であったとは知らず、強勢に頼って落胎泉を守る。相逢って仇怨を語るに至り、争いは決して望み通りにはならぬ。言葉を交わして縺れ合い、心は悪く情は凶で仇を報いる。こちらは師匠が命を落とすために水を求め、あちらは甥が命を落としたために泉を与えぬ。如意鉤は蝎の毒よりも強く、金箍棒は龍の頂きよりも猛い。胸を突いて威を示し、足を斜めに钩って妙技を展く。陰手の棍は傷つける所重く、肩越しの鉤は首に近い鞭となる。腰を鎖す一棍は鷹が雀を捕らえ、頂を圧す三钩は螳螂が蝉を捕る。来たり来たりして勝敗を争い、反復して二回巡る。鉤は棒に纏わり打つに前後なく、勝ち負けは何処にあるか見えず。
その先生は大聖と十数合戦ったが、大聖に敵わなかった。大聖は戦うほどにますます猛り、一本の棒は滾る流星の如く、頭を目がけて乱打する。先生は力尽きて息を切らし、如意鉤を引きずって山へ逃げた。
孫悟空は彼を追わず、庵内に入って水を探した。あの道士は既に庵の門を閉ざしていた。孫悟空は瓦鉢を持ち、門前に駆け寄り、力を尽くして一脚で庵の門を蹴破り、闖入した。あの道士が井戸の欄干にうつ伏せているのを見て、孫悟空は大声で一喝し、棒を振り上げて打とうとすると、道士は後ろへ逃げた。そこでようやく釣瓶を見つけ、水を汲もうとしたところ、またあの先生が前に駆けつけ、如意鉤で孫悟空の足を引っ掛けて一引きし、嘴を地に擦りつけて転ばせた。孫悟空は起き上がり、鉄棒を振るって打つと、彼は脇に避けて、鉤を持って言う、「お前がわしの水を取れるか見てみよ。」孫悟空は罵って言う、「お前上がって来い、上がって来い、この孽障め、直に打ち殺してやる!」その先生も前に出て迎え撃たず、ただ妨害して、孫悟空に水を汲ませなかった。孫悟空は彼が動かないのを見て、左手で鉄棒を振り回し、右手で釣瓶を持った。ちょうど縄をざあざあと下ろすと、彼がまた鉤を使って来る。孫悟空は片手で支えきれず、また彼に足を鉤で引っ掛けられ、よろめいて、縄ごと井戸に落ちてしまった。孫悟空は言う、「この奴、本当に無礼だ。」起き上がり、両手で棒を振り回し、頭も顔もなく打ちかかる。その先生はまたも逃げて行き、迎え撃とうとしなかった。孫悟空はまた水を取ろうとしたが、釣瓶がなく、また彼に鉤で引かれるのを恐れ、心の中でひそかに思った、「ひとまず助っ人を呼びに行こう。」
良い孫悟空、雲頭を転じ、直ちに村の家の門口に来て、一声叫ぶ、「沙和尚。」中では唐僧が痛みに耐えて呻き、猪八戒がふんふんと唸っていた。呼び声を聞いて、二人は喜んで言う、「沙僧よ、悟空が来たぞ。」沙僧は急いで門を出て迎え、言う、「兄さん、水を取って来ましたか?」孫悟空は門に入り、唐僧に先のことを詳しく話した。唐僧は涙を流して言う、「弟子よ、このような時にどうすればよいのか。」孫悟空は言う、「私は沙兄弟を呼んで一緒に行き、あの庵の辺りで、老孫があの奴と戦っている間に、沙僧に機会を見て水を取らせてあなたを救います。」唐僧は言う、「二人の病でない者が行ってしまい、病の者二人を残して、誰に世話をさせるのか。」その老婆が傍らで言う、「老羅漢はただご安心を、あなたの弟子たちを必要とせず、我が家で自然に看護し世話を致します。あなた方が朝に来られた時、我々は確かに哀れむ心がありました。先ほどこの菩薩が雲に乗り霧を駆るのを見て、あなたが羅漢菩薩だと知りました。我が家では決してあなたを害そうとは思いません。」
行者は咄と一声発して言う、「お前たち女の輩、誰を害そうとするのか。」老婆は笑って言う、「お爺様よ!それでもあなた方は幸運で、我が家に来られたのです!もし別の家に行けば、あなた方も無事では済みませんでした。」八戒はふんふんと言う、「無事では済まないとは、どういうことだ?」婆婆は言う、「我が家は一家四五人、皆それなりの年で、風月のことは全て止めております。それゆえあなた方を害そうとは思いません。もし別の家に行けば、老若多く、あの若い者たちが、誰があなた方を見逃すでしょうか?すぐにあなた方と交合しようとします。もし従わなければ、あなた方を害し、その肉をすべて切り取って香袋にするのです。」八戒は言う、「そうならば、私は決して害はない。彼らは皆香ばしくて、香袋に良かろうが、私は臍の臭い豚だ。たとえ肉を切り取られても、臭いだろうから、それゆえ害はない。」行者は笑って言う、「大口を叩くな。力を節約して、産気づくのに備えよ。」その婆婆は言う、「ためらうな、早く水を探しに行け。」行者は言う、「お前の家に釣瓶はあるか?一つ借りたい。」その婆子はすぐに後ろから釣瓶を取り出し、また縄を一筋搓って、沙僧に渡した。沙僧は言う、「縄を二筋持って行こう。万一井戸が深い時のためだ。」
沙僧は桶と縄を受け取り、すぐに大聖に従って村の家を出、共に雲に乗って行き、半時も経たないうちに解陽山の境に着いた。雲頭を下ろし、直ちに庵の外に来た。大聖は沙僧に言い付ける、「お前は桶と縄を持って、先に片隅に隠れていろ。老孫が先に出て挑戦する。お前は我々二人の戦いが激しくなるのを待って、その隙に入って行き、水を取ってすぐに立ち去れ。」沙僧は謹んで指示を守る。
孫大聖は鉄棒を抜き、門に近づいて高声に叫ぶ、「門を開け、門を開け!」その門番が見て、急いで中に入って報じる、「師匠、あの孫悟空がまた来ました。」その先生は心中大いに怒って言う、「この泼猴は極めて無礼だ。以前から彼に多少の手段があると聞いていたが、今日初めて知った。あの棒は実に敵し難い。」道人は言う、「師匠、彼の手段は高くとも、あなたも彼に劣りません。まさに好敵手です。」先生は言う、「前の二回は、彼に勝たれた。」道人は言う、「前の二回は勝ったとはいえ、ただ一瞬の勢いでした。後の二回、水を汲もうとした時は、師匠が彼を二度転ばせました。これは互角ではありませんか?彼が先にやむを得ず去ったのが、今また来るのは、きっと唐僧が胎を成し身重で、責めるのが厳しく、已むを得ず来たのでしょう。彼には必ず師匠を侮る心があり、我が師が必ず勝つと保証します。」
真仙はこれを聞き、喜びに満ちて春の趣を帯び、笑い含んで一陣の威風を振るい、如意鉤を突き出して門を出て、喝して言う、「泼猢狲め!また何をしに来た?」大聖は言う、「私はただ水を取りに来ただけだ。」真仙は言う、「泉は我が家の井戸だ。たとえ帝王や宰相でも、必ず羊酒の礼を備えて求め、やっと少し与えるのだ。ましてやお前は我が仇敵、よくも空手で取りに来たな。」大聖は言う、「本当に与えぬのか?」真仙は言う、「与えぬ、与えぬ。」大聖は罵って言う、「泼孽障め!水を与えぬなら、棍を見よ!」構えを取り、一気に飛び込み、言い分を聞かずに頭を目がけて打つ。その真仙は脇に身を避け、鉤を遣って急いで受け応えする。この戦いは前よりも更に激しく、良い戦いである:
金箍棒、如意鉤、二人は怒って各々仇を抱く。飛沙走石で乾坤は暗く、土を播き塵を揚げて日月は憂う。大聖は師を救うために水を取りに来、妖仙は甥のために求めを許さず。両家共に力を尽くし、一処で安否を賭ける。歯を食いしばって勝負を争い、歯を切って剛柔を定める。機変を加え、ますます奮い立ち、雲を噴き霧を吐いて鬼神も愁える。ぴんぴんぱんぱんと鉤棒は響き、喊声は咆哮して山丘を震わす。狂風は滾々として林木を摧き、殺気は紛紛として斗牛を過ぎる。大聖は戦うほどに喜び、真仙は打つほどにますます綿密になる。心あり意ありで相争い戦い、存亡を定めずして止まぬ。
彼ら二つは庵の門の外で手を交え、跳ね回りながら、山坡の下まで戦い、苦しく相持ちして語らず。
さて、沙和尚は釣瓶を提げて門をくぐり入ると、あの道士が井戸のそばに立って遮り、「お前は何者だ、よくも水を汲みに来たな」と言った。沙僧は釣瓶を置き、降妖宝杖を取り出し、言葉もなく、頭めがけて打ちかかった。道士は逃げる間もなく、左腕を打ち砕かれ、地面に倒れてもがいた。沙僧は罵って言った。「この畜生め、お前を打ち殺してやりたいが、人間の姿をしているので、哀れに思って見逃してやろう。さあ行け。俺に水を汲ませろ。」道士は天に地に泣き叫びながら、後ろへ這って行った。沙僧はようやく釣瓶を井戸に下ろし、満々と一釣瓶の水を汲み上げ、庵の門を出て、雲霧に乗り、行者に向かって叫んだ。「兄貴、もう水を取ったぞ。奴を許してやれ、許してやれ。」
大聖がそれを聞き、ようやく鉄棒で鉤を受け止めて言った。「本来なら皆殺しにしてやろうと思ったが、一つにはお前が法を犯していないこと、二つにはお前の兄貴、牛魔王の顔を立ててのことだ。以前来た時、俺は二度も鉤を食らって、水を得られなかった。今回使ったのは調虎離山の計で、お前を誘い出して戦わせ、その隙に我が弟に水を取らせたのだ。老孫が本気でお前に立ち向かう気なら、お前一人の如意真仙ごとき、数人がかかっても打ち殺せるわ。しかし、殺すよりは生かす方が良い。お前を許して、幾年か余計に生かしてやろう。今後、水を汲みに来る者があれば、決して邪魔をするな。」あの妖仙は恩を仇で返すようなもので、身を揺すって、すぐに足を鉤にかけようとした。大聖は鉤先をかわし、追いかけて行って、「待て!」と一声喝した。妖仙は不意を突かれ、突き倒され、もがいても立ち上がれなかった。大聖は如意鉤を奪い取り、二つに折った。さらに掴んでまた引き裂き、四つに砕いて地面に投げ捨てて言った。「この畜生め!まだ無礼を働く気か?」妖仙は恐れおののき、辱めを忍んで言葉もなかった。大聖は笑いながら雲に乗って立ち去った。詩に証拠がある。詩に曰く:
真鉛を煉るには真水を要し、真水は調和して真汞を乾かす。
真汞真鉛、母気無くば、霊砂霊薬、仙丹となる。
嬰児、枉げて胎像を結べど、土母、功を施すに難しからず。
傍門を推し倒して正教を宗とし、心君、意を得て笑顔を還す。
大聖は祥光に乗り、沙僧に追いついた。真水を得て、喜び勇んで元の場所に帰った。雲を下ろし、まっすぐに村の家に来た。猪八戒が腹を突き出し、門の枠に寄りかかって呻いているのが見えた。行者はこっそり近づいて言った。「間抜けめ、いつ部屋を占領したんだ?」間抜けは慌てて言った。「兄貴、冗談はよせ。水は手に入ったのか?」行者はまだからかおうとしたが、沙僧がすぐに到着し、笑いながら言った。「水が来たぞ、水が来たぞ。」三蔵は痛みに耐えて身を起こし、「弟子たちよ、苦労をかけた。」と言った。老婆も大層喜び、家の者たちも皆出てきて礼をして言った。「菩薩様、これはまことに珍しい、珍しい。」急いで花模様の磁器の茶碗を取り、半杯ほど汲んで三蔵に差し出して言った。「老師父様、ゆっくりお飲みください。一口で胎気が解けます。」八戒が言った。「俺は茶碗なんていらん、釣瓶ごと飲んでやる。」婆さんが言った。「旦那様、怖いことを言わないでください。この釣瓶の水を飲んだら、腸や腹まで溶けてしまいますよ。」間抜けは怖気づいて、無茶はできず、やはり半杯だけ飲んだ。
およそ一飯の程の時が過ぎ、二人は腹の中が痛み出し、ゴロゴロと三五度の腸鳴りが聞こえた。腸鳴りの後、間抜けは堪えきれず、大小便を一緒に漏らしてしまった。唐僧も堪えきれず、人気のない所で用を足そうとした。行者が言った。「師匠、風の強い所へは行かないでください。人目が怖いし、もし風に当たれば、産後の病気になります。」老婆はすぐに二つの清らかな桶を取り出し、二人に用を足させた。やがて、それぞれ何度か用を足すと、痛みが止まり、次第に腫れが引き、血の塊は消え去った。老婆の家ではまた白米の粥を煎じて、虚弱を補わせた。八戒が言った。「婆さん、俺の体は丈夫だ、補う必要はない。湯を沸かして、風呂に入れてくれれば、粥が飲める。」沙僧が言った。「二哥、風呂は駄目だ。産後の者が水に触れると、病気になる。」八戒が言った。「俺は大産じゃない、ただの小産だ、何を怖がることがある?洗ってさっぱりしよう。」婆さんは本当に湯を沸かし、二人に手足を洗わせた。唐僧はやっと粥を二杯飲んだ。八戒は十数杯も飲み、まだお代わりを求めた。行者は笑って言った。「この怠け者め、少しにしろ。腹が砂袋のようになったら、格好がつかないぞ。」八戒は言った。「大丈夫だ、大丈夫。俺は雌豚じゃない、何を怖がることがある?」その家の者は本当にまた片付けをして、飯を炊いた。
老婆が唐僧に言った。「老師父様、この水を私に下さいませんか。」行者が言った。「間抜け、水は飲まないのか?」八戒が言った。「俺の腹ももう痛くないし、胎気ももう消えたようだ。さっぱりして何もないのに、また水を飲んでどうする?」行者が言った。「二人とも治ったのなら、水をお前にやろう。」老婆は行者に礼を言い、残りの水を瓦の壺にしまい、裏の地面に埋めた。そして皆に言った。「この壺の水で、私の棺桶代が足りる。」皆は喜ばない者はなく、斎の準備を整え、机や腰掛けを並べた。唐僧たちは斎を食べ、ゆったりと一夜を休息した。
次の日の明け方、師弟たちは老婆の家に礼を言い、村の家を離れた。唐三藏は鞍に飛び乗り、沙和尚は行李を担ぎ、孫大聖は先導し、猪八戒は手綱を取った。まさにこれ:
口の業を洗い清め、身は清らかに、凡胎を銷し化して、体は自然と成る。
果たして国境に至って、また何ごとがあるか、それは次の回の分解を聴くに委ねる。
