第五十六回 神狂誅草寇 道昧放心猿
第五十六回 神狂草寇を誅し 道昧れて心猿を放つ
詩に曰く:
霊台に物無きを清と謂い、寂寂として全く一念も生ぜず。
猿馬を牢に収めて放蕩するを休め、精神は謹慎して峥嶸たるを莫かれ。
六賊を除き、三乗を悟り、万縁を罷めて自ずから分明なり。
色邪永く滅して真界を超え、坐して西方極楽の城を享く。
話に唐三藏、釘を咬み鉄を嚼み、死命を以て一つの不壊の身を留め、感蒙して行者等が蝎子精を打ち殺し、琵琶洞を救い出せり。一路に話も無く、又早くも朱明の時節と為る。但だ見る:
薫風時として野蘭の香を送り、濯雨才だ晴れて新竹涼し。
艾葉山に満つれども客採る無く、蒲花澗に盈ちて自ら芳を争う。
海榴は嬌艷にして遊蜂喜び、溪柳は陰濃くして黄雀狂う。
長路那ぞ能く角黍を包まん、龍舟は応に汨羅江を弔うべし。
彼の師徒たち、端陽の景を行き賞し、中天の節を虚度し、忽ち又一座の高山、路を阻むを見る。長老、勒馬して回頭し叫んで曰く「悟空、前に山有り、恐れ又妖怪を生ぜん、必ず謹んで防げ」と。行者等曰く「師父放心せよ。我ら命に帰し誠に投ず、何の妖怪を怕れんや」と。長老、言を聞きて甚だ喜ぶ。鞭を加えて駿馬を催し、辔を放ちて蛟龍を趕う。須臾にして山崖に上り、頭を挙げて観看す、真個に是れ:
頂巔の松柏は雲青に接し、石壁の荊棘は野藤を掛く。万丈の崔巍、千層の懸削。万丈の崔巍は峰嶺峻しく、千層の懸削は壑崖深し。蒼苔碧藓は陰石に鋪き、古桧高槐は大林を結ぶ。林の深き処、幽禽を聴く、巧声𪾢睆して実に吟ずるに堪えたり。澗内の水流は玉を瀉すが如く、路傍の花落つるは金を堆くするに似たり。山勢悪しく、行くに堪えず、十歩に半歩の平かなるも無し。狐狸糜鹿は双を成して遇い、白鹿玄猿は対を作して迎う。忽ち虎嘯を聞きて人の胆を驚かし、鶴鳴は耳を振るいて天庭を透く。黄梅紅杏は供食に堪え、野草閑花は名を知らず。
四众、山に入り、緩行すること良久しくして、山頭を過ぐ。西坡を下れば、乃ち一段の平陽の地と為る。猪八戒、精神を売り、沙和尚に担子を挑げしめ、彼は雙手を挙げて鈀を持ち、上前して馬を趕う。其の馬更に彼を懼れず、呆子の嗒笞笞たるに憑かせ、還た緩行して緊まず。行者曰く「兄弟、彼を趕いて怎にせん?彼に慢慢と走るを任せよ」と。八戒曰く「天色将に晚んとす、山に上りて此の日を行くこと、腹中餓えたり、大家動き易く、人を尋ねて家と為し、些かの齋を化せん」と。行者、言を聞きて曰く「既に此の如くならば、我に彼を快く走らしめん」と。金箍棒を幌一幌し、一声を喝すれば、其の馬、韁を溜め、飛ぶが如く箭の如く、平路に順いて前に往く。
汝、馬は八戒を懼れず、只だ行者を懼るるは何ぞや?行者、五百年前、曾て玉帝の封を受け、大羅天御馬監に在りて馬を養い、官名は弼馬温と曰う、故に此れを伝え留めて今に至る、馬は皆猴子を懼る。
其の長老、韁繩を挽き留めず、只だ鞍鞒に緊み扳り、彼に一つの路辔頭を放たしめ、二十里向こうの田地に及び、方めて緩歩して行く。
正に走り行く処、忽ち一棒の鑼声を聞く、路の両辺に三十余人閃き出で、一個個、槍刀棍棒を執り、路口を攔りて曰く「和尚、何処へ行く?」と。嚇されて唐僧、戦兢兢として坐り穩かならず、馬より跌ち落ち、路傍の草科に蹲り、只だ叫んで曰く「大王、命を赦したまえ、大王、命を赦したまえ」と。其の頭と為る二人の大汉曰く「汝を打たず、只だ盤纏有らば留め置け」と。長老、方めて省悟し、知るに彼は一伙の強人と為すと、却って身を欠き頭を挙げて観看す。但だ彼を見る:
一つの青臉獠牙は太歳に欺き、一つの暴睛圓眼は喪門に賽す。鬢辺の紅髪は火を飄かすが如く、頷下の黄鬚は針を挿すに似たり。彼の両個、頭に虎皮花磕腦を戴き、腰に貂裘彩戰裙を繋く。一つの手中に狼牙棒を執り、一つの肩上に扢挞藤を横担す。果して巴山虎に亜かず、真個に猶お出水の龍の如し。
三藏、彼の此れ程凶悪なるを見、只得ち起ち来り、掌を合わし胸に当てて曰く「大王、貧僧は東土の唐王の差して西天に往き経を取らしむる者なり。長安を別れてより、年深く日久しく、些かの盤纏も有れども使い尽くせり。出家人は専ら乞化を以て由と為す、那ぞ財帛を得んや?万望、大王方便方便して、貧僧を過ぎ行かしめたまえ」と。其の両賊、衆を帥いて前に向かい曰く「我ら此の地に一片の虎心を起こし、要路を截り止め、専ら些かの財帛を要す、何の方便方便ぞや?汝果して財帛無くんば、快く早く衣服を脱ぎ、白馬を留め置き、汝を放ちて過ぎ行かしめん」と。三藏曰く「阿弥陀仏!貧僧の此の衣服は東家に布を化し、西家に針を化し、零零碎碎として化し来れるものなり。汝若し剥ぎ取らば、豈に我を殺さずや?只だ此の世にて好漢と做るも、其の世にて畜生と変ずるなり」と。其の賊、言を聞きて大いに怒り、大棍を掣き、上前して即ち打つ。此の長老、口内に言わず、心中に暗に想いて曰く「憐れむべし!汝、只だ汝の棍子を説くも、還た我が徒弟の棍子を知らず」と。其の賊、那ぞ分説を容れん、棒を挙げて、没頭没臉に打ち来る。長老、一生に誑語を説かず、此の急難の処に遇い、奈何とも為す無く、只得ち誑語を打ちて曰く「二位の大王、且く手を動かす莫れ。我に小徒弟有り、後に在りて即ち到らん、彼の身に幾両かの銀子有り、汝に与えん」と。其の賊曰く「此の和尚は吃虧に堪えず、且く縛り上げよ」と。衆の喽啰、一斉に手を下し、一条の繩を以て縛り、高く樹に吊るす。
説くに、三つの撞禍精、後に続きて追い来る。八戒、呵呵と大いに笑いて曰く「師父、去る好く快し、何処に在りて我らを待つか知らず」と。忽ち長老師父の樹に在るを見、彼又曰く「汝、師父を見よ、待つは便りにせよ、却って此の如き心腸有り、樹に上りて藤兒を扯り、秋千を打ちて戲るるか」と。行者、見て曰く「呆子、乱に談ずる莫れ。師父は彼の処に吊るさるるに非ずや?汝の両人、慢々と来たれ、我に行きて看ん」と。
好大聖、急ぎ高坡に登り細かに看、認め得るに是れ一伙の強人と為す、心中暗に喜びて曰く「造化、造化、買賣門に上れり」と。即ち歩を転じ、身を摇り一変し、変じて一箇の乾乾淨淨たる小和尚と做る、一領の緇衣を穿ち、年紀は只だ二八、肩上に一箇の藍布包袱を背負う。歩を拽き開き、前に辺に来たり、叫んで曰く「師父、此れ是れ怎なる話ぞや?此れ皆是れ何の歹人ぞや?」と。三藏曰く「徒弟よ、未だ我を救わずして、何を尚問うや?」と。行者曰く「是れ干す所の勾当は何ぞや?」と。三藏曰く「此の一伙、路を攔りて我を攔め、買路錢を要す。身の辺に物無きに因り、遂に我を此の処に吊るせり、只だ汝の来たりて計較計較せんを待つ。然らずんば、此の馬を彼に送らん」と。行者、言を聞き、笑いて曰く「師父は不済なり、天下にも和尚有り、汝の此の如く皮の鬆けたるに似たるは却って少なし。唐太宗、汝を差して西天に往き仏に見えしむ、誰か汝に此の龍馬を人に送るを教えし?」と。三藏曰く「徒弟よ、此の如く吊るされて、打ちて要するに似たらば、怎生して是か好からん?」と。行者曰く「汝、如何に彼に説き来たれり?」と。三藏曰く「彼の我を打つこと急にして、奈何とも為す無く、没奈何に、汝を供出せしなり」と。行者曰く「師父、汝好く没搭撒なり。汝、我を供して怎にせん?」と。三藏曰く「我、汝の身の辺に些かの盤纏有りと言い、且く彼に我を打つ莫らしめんと、是れ一時の救難の話兒なり」と。行者曰く「好、好、好、汝の抬举を承り、正に此の如く供せよ。若し肯んじて一箇月に七八十遭を供せば、老孫、愈々買賣有らん」と。
其の伙の賊、行者と其の師父と話すを見、勢いを撒き開き、囲みて上り来たり曰く「小和尚、汝の師父、汝の腰裏に盤纏有りと言う、趁早く出だせ、汝等の性命を赦さん;若し半箇の『不』字を説かば、即ち皆汝の残生を送らん」と。行者、包袱を放下し曰く「列位の長官、嚷ぐ莫れ。盤纏は些か此の包袱に在り、多からず、只だ馬蹄金二十来錠、粉面銀二三十錠、散碎のものは未だ数を見ず。要する時は連包兒にして取り去れ、切に我が師父を打つ莫れ。古書に云く『徳は本なり、財は末なり』と。此れは末事なり。我等出家人は自ら化する処有り、若し齋僧の長者に遇わば、衬錢も有り、衣服も有り、能く幾何を用いん?只だ我が師父を放下せしめよ、我即ち一并に奉承せん」と。其の伙の賊、言を聞き、皆甚だ喜びて曰く「此の老和尚は慳吝なり、此の小和尚は却って慷慨なり」と。教えて曰く「放下せよ」と。其の長老、命を得、馬に跳び上り、行者を顧みず、鞭を操り、一直ちに旧路を跑り還る。
行者は急に叫んだ。「道を間違えたぞ。」荷物を抱えて追いかけようとすると、その賊たちが立ちはだかって言った。「どこへ行く? 路銀を置いていけ。さもなくば痛い目に遭うぞ。」行者は笑って言った。「話をしよう。路銀は三分の一ずつ分けよう。」賊の頭領が言った。「この小僧はなかなか賢い。師匠に隠して少しばかり残そうとしているのだな。よし、出してみろ。多ければ、お前にもこっそり果物を買う分をやろう。」行者は言った。「兄貴よ、そういう話ではない。私に路銀などあるものか。お前たちが他人の金銀を強奪したのだから、必ず私にも分け前をくれ。」その賊はこれを聞いて大いに怒り、罵って言った。「この坊主は死ぬ気か。お前は我々に与えようとせず、逆に我々に要求するとは。逃げるな、打つぞ。」一本の節のある藤の棍棒を振り上げ、行者の禿頭に七八発打ち下ろした。行者は何でもないかのように、にこにこ顔で言った。「兄貴よ、そんな打ち方では、来年の春まで打ち続けても効き目はないぞ。」賊は大いに驚いて言った。「この坊主、頭が固い!」行者は笑って言った。「恐れ入ります、恐れ入ります。過分なお褒めを頂きましたが、まあ何とか見られる程度です。」賊は話を聞く余地もなく、二三人が一緒になって乱打した。行者は言った。「皆さん、お怒りを収めてください。私が出しましょう。」
さすが大聖、耳の中を探ると、一本の刺繍針を取り出して言った。「皆さん、私は出家者で、確かに路銀など持っておりません。この針を差し上げましょう。」賊は言った。「ついてないな。金持ちの坊主を逃がして、貧乏な禿坊主を捕まえるとは。お前、仕立て屋か? 針をどうしろというのだ?」行者は要らないと言うのを聞いて、それを手に取り、一振りすると、茶碗ほどの太さの棍棒に変えた。賊は怖がって言った。「この坊主は小柄だが、術を使うのだな。」行者は棍棒を地面に突き立てて言った。「皆さん、これを持ち上げられたら差し上げましょう。」二人の賊が前に出て奪おうとしたが、哀れなことに、まるでトンボが石柱を揺するようなもので、少しも動かすことはできなかった。この棍棒は元々如意金箍棒、天秤で計ればの重さがあり、あの賊たちが知る由もない。大聖は前に進み、軽々とそれを手に取り、蛇が身をひねるような足取りで、強盗たちを指さして言った。「お前たちは運が悪い。俺、老孫に会ってしまったからな。」賊が前に出て、また五六十発打った。
行者は笑って言った。「お前も手が疲れただろう。今度は老孫が一発お見舞いしよう。だが本気にするなよ。」彼は棍棒を広げて一振りすると、井戸の枠ほどの太さ、七八丈の長さになり、振るった一撃で一人を地面に倒し、唇を土にまみれさせ、二度と声を発しなくなった。もう一人が口を開いて罵った。「この禿げ野郎、無礼極まりない! 路銀がない上に、私の仲間を一人傷つけた。」行者は笑って言った。「待て待て、一人ずつやってやろう。お前たち皆、根絶やしにしてやる。」振るった又一撃で、二人目も打ち殺した。これを見た賊の子分たちは槍や棍棒を投げ捨て、四方八方に逃げ散った。
さて、唐僧は馬に乗って東へ走っていたが、八戒と沙僧が止めて言った。「師父、どこへ行かれるのです? 道を間違えております。」長老は馬を引き止めて言った。「弟子よ、すぐに行って兄貴に伝え、棍棒を加減して、あの強盗たちを殺さないように言え。」八戒は言った。「師父、お待ちください。私が行って参ります。」呆子は一路、前へ走って行き、大声で叫んだ。「兄貴、師父が人を打つなとおっしゃっているぞ。」行者は言った。「弟よ、誰が人を打った?」八戒は言った。「あの強盗たちはどこへ行った?」行者は言った。「他は皆散ったが、二人の頭領はここで寝ている。」八戒は笑って言った。「お前たち、疫病にやられたな。夜更かししたのか、そんなに疲れて、他の場所で寝ずにここで寝るとは。」呆子はそばに寄って見て言った。「俺と同じで、口を開けて寝て、よだれを垂らしている。」行者は言った。「老孫が一棍棒で豆腐を出してやったのだ。」八戒は言った。「人の頭に豆腐があるものか?」行者は言った。「脳みそを出したのだ。」
八戒は脳みそが出たと聞いて、慌てて走り戻り、唐僧に言った。「解散です。」三蔵は言った。「善哉、善哉。どの道へ行った?」八戒は言った。「打たれて足を伸ばして死んでしまいました。どこへ行くというのです?」三蔵は言った。「なぜ解散だと言うのだ?」八戒は言った。「打ち殺したのです。解散でなくて何ですか?」三蔵は尋ねた。「どのように打ったのだ?」八戒は言った。「頭に大きな穴が二つ開いています。」三蔵は言った。「包みを解いて、数文の香典を出し、急いで膏薬を二つ買って来て、彼らに貼ってやれ。」八戒は笑って言った。「師父はおかしなことをおっしゃいます。膏薬は生き物の腫れ物に貼るもので、死人の穴に貼るものではありません。」三蔵は言った。「本当に打ち殺したのか?」そう言って怒り出し、口の中でぶつぶつと、猿が長いだの、猿が短いだのと呟いた。馬を引き返し、沙僧や八戒と共に死体の前に行くと、血まみれで山の斜面に倒れているのを見た。
この長老は大いに見るに忍びず、すぐに八戒に言った。「早く釘耙で穴を掘って埋めよ。私が『倒頭経』を一巻読んでやろう。」八戒は言った。「師父は人をこき使うのが上手い。行者が人を殺したのだから、彼に焼き埋めをさせるべきで、なぜ老豚が土工をするのです?」行者は師父に叱られて怒り、八戒にどなった。「この怠け者のブタ野郎! 早く埋めに行け。遅れたら一発お見舞いするぞ。」呆子は慌てて、山の斜面に三尺ほどの深さを掘ったが、下は石の根があり、耙の歯に当たった。呆子は耙を投げ出し、嘴で掘り始めた。柔らかい所に嘴を突っ込むと、一嘴で二尺五寸、二嘴で五尺の深さになり、賊の死体を二つ埋め、塚を盛った。三蔵は言った。「悟空、香と蝋燭を取って来い。祈禱をして、経を読もう。」行者は口を尖らせて言った。「全く空気の読めない人だ。この山の中腹で、前にも村もなく、後ろにも宿もないのに、どこで香や蝋燭を調達できる? 金があっても買う場所がない。」三蔵は恨みがましく言った。「猿め、どけ。私が土を撮って香とし、祈禱をしよう。」これが三蔵が鞍を下りて野の塚を悲しみ、聖僧が善念を持って荒れ果てた墓に祈る場面である。祈りの言葉は以下の通り:
拝み奉る好漢たち、祈りの理由を聞きたまえ。我が弟子を思え、東土の唐人なり。太宗皇帝の勅命を奉じ、西方に上り経文を求めんとす。たまたま此地に来たり、汝ら大勢の人に逢えり。いずれの府、いずれの州、いずれの県なるかを知らず、皆この山の中にて徒党を組み群れをなす。我は善き言葉をもって、懇ろに哀れみ願えども、汝ら聞き入れず、善を返して怒りを生ぜり。故に行者の手に遭い、棍棒の下に身を傷つけられたり。屍骸の露わになるを深く思い、我ここに土を盛りて塚を築く。青竹を折りて香燭と為すも、光彩は無けれど、心は勤む。頑石を取りて施食と為すも、味は無けれど、誠は真なり。汝ら閻魔殿の下に至りて訴訟を起こすならば、樹を倒して根を尋ねよ。彼は孫と姓し、我は陳と姓す、各々異姓に居る。怨みには頭があり、債には主あり。決して我が取経の僧を告げるなかれ。
八戒は笑って言った。「師父は綺麗に逃げられた。彼が打った時には、我々二人はいなかったのだから。」三蔵は本当にまた土を撮って祈った。「好漢よ、訴訟を起こすなら、行者だけを告げよ。八戒や沙僧のことは関係ない。」
大聖はこれを聞いて、思わず笑って言った。「師父、あなた様はあまりにも情けがおありになりません。あなたのために経を取りに行くために、私はどれほどの苦労を費やしたか。今、この二人の盗人を打ち殺したところで、あなたは彼らに老孫を告げさせようとなさる。確かに私が手を下して打ちましたが、それはあなたのためです。あなたが西天へ経を取りに行かなければ、私があなたの弟子になることもなく、ここに来て人を殺すこともなかったでしょう。いっそのこと、私も祈らせてください。」鉄棒を握りしめ、その塚に向かって三度打ち付けて言った。「疫病にやられた強盗ども、聞け。お前たちに前後七八発ずつ打たれて、痛くも痒くもなかったが、それがかえって俺の性癖に触れ、あやまってお前たちを打ち殺した。どこへでも訴えに行くがいい。俺、老孫は全く怖くはない。玉帝は俺を知り、天王は俺に従う。二十八宿は俺を畏れ、九曜星官は俺を恐れる。府や県の城隍は俺にひざまずき、東岳天斉は俺を怖がる。十代の閻魔はかつて俺の僕従であり、五路の猖神は俺の後輩だった。三界や五司、十方の諸宰を問わず、皆俺と情深く面識がある。どこへでも訴えに行くがいい。」三蔵はこのような悪い言葉を聞いて、また驚いて言った。「弟子よ、私の祈禱はお前に生を好む徳を体得させ、善良な人間になれと言うものだ。どうしてお前は真に受けるのだ?」行者は言った。「師父、これは冗談になるようなことではありません。早く宿を探しに行きましょう。」長老はやむを得ず怒りを抱いて馬に乗った。
孫大聖には心の和まぬ思いがあり、八戒や沙僧にも嫉妬の心があった。師弟たちは皆、表面と内心が異なっていた。大路に沿って西へ向かって進むと、突然、道の北側に一つの屋敷が見えた。三蔵は鞭で指さして言った。「あそこに宿を借りよう。」八戒は言った。「その通りです。」そこで屋敷のそばまで行き、馬を下りた。見ると、なかなか良い場所だった。ただし、その様子は:
野花が小道を埋め尽くし、雑木が門を遮る。遠くの岸辺には山水が流れ、平らな畝には麦と葵が植えられている。蘆の露に濡れ、軽やかな鴎が休む;柳の間を微風が撫で、疲れた鳥が止まる。青々とした柏と松が互いに競い合い、紅の蓬が蓼の花に映えて芳しさを競う。村の犬が吠え、夕暮れの鶏が啼き、牛羊は飽き、牧童が帰る。炊煙が霧のように立ち込め、黄粱の飯は既に煮え、まさに山村の家々が黄昏を迎える頃である。
長老が歩み寄ると、ふとその村の家の門から一人の老翁が出てくるのを認め、進み出て挨拶を交わした。その老翁が問うた:「僧家はどこから来られた?」三蔵が言う:「貧僧は東土大唐の勅命を帯び、西天に真経を求めに向かう者です。たまたま此地を過ぎ、日も暮れかかりましたので、特に貴府に一夜の宿をお借りしようと参りました。」老翁は笑って言う:「お主のところから我がところまでは、道のりが遠い。どうやって山を越え水を渡り、独りでここまで来たのか?」三蔵が言う:「貧僧にはまだ三人の弟子が共に参っております。」老翁が問う:「高弟はどこに?」三蔵が指をさして言う:「あの大路の辺りに立っているのがそれです。」老翁がふと頭を上げて、その醜い相貌を見るや、慌てて身を翻し中に入ろうとした。三蔵に引き留められて言う:「老施主、どうかひとつ慈悲をおかけください、一夜だけお宿を!」老翁は恐れ戦き、口を閉ざして言うこともできず、首を振り、手を振って言う:「い、い、いや、人の形をしておらぬ!あ、あ、あれは幾匹かの化け物だ。」三蔵が笑顔を作って言う:「施主、どうか恐れなさいますな。我が弟子は生まれつきこのような顔立ちで、化け物ではございません。」老翁が言う:「おじい様よ!一人は夜叉、一人は馬面、一人は雷公だ。」孫悟空がこの言葉を聞き、鋭い声で高らかに叫んだ:「雷公は我が孫、夜叉は我が曾孫、馬面は我が玄孫だ。」その老翁、聞いて魂も消え入るばかりに恐れ、顔色も変わり、ただ中に入ろうとした。三蔵が彼を支え、共に草堂に来て、笑顔を作って言う:「老施主、彼らを恐れることはありません。皆、このように粗野で、言葉を知らぬだけです。」
まさに慰めているところへ、後ろから一人の老婆が、五、六歳の子供を連れて出て来て言う:「おじいさん、なぜそんなに驚いておられるのです?」老翁はようやく叫んだ:「母さん、茶を出せ。」その老婆は本当に子供を置き、奥に入って二杯の茶を捧げ出した。茶を飲み終えると、三蔵は身を翻して下り、老婆に礼をして言う:「貧僧は東土大唐から西天に経を求めに遣わされた者です。たまたま此地に至り、貴府に一夜の宿を懇願いたしました。我が三人の弟子の顔立ちが醜いため、ご主人様が虚仮の驚きをなさいました。」老婆が言う:「顔の醜い者を見てこれほど驚かれるのなら、もし虎や豺狼を見たらどうなることか?」老翁が言う:「母さんよ、人の顔が醜いのはまだしも、言葉がなおさら人を驚かせるのだ。私が彼を夜叉、馬面、雷公のようだと言うと、彼は叫んで、雷公は自分の孫、夜叉は自分の曾孫、馬面は自分の玄孫だと言う。これを聞いて、私は恐れたのだ。」唐僧が言う:「違います、違います。雷公のような者は、我が大弟子の孫悟空でございます;馬面のような者は、我が二弟子の猪悟能でございます;夜叉のような者は、我が三弟子の沙悟浄でございます。彼らは醜いとはいえ、仏教を信じ、善き果報に帰依しております。何の悪魔毒怪でもございません。彼らを恐れることは何がありましょう?」
老夫婦の二人が彼らの名号と、仏門に帰依したという話を聞いて、ようやく心を落ち着け、正気に返って言う:「お呼びください、お呼びください。」長老が門を出て彼らを呼び、また言い含めた:「先ほどこの老翁はお前たちをひどく嫌っておられた。今、入って会うときは、決して逆らって無礼を働くな。各自、慎むように。」猪八戒が言う:「私は美しい、私は上品だ。兄貴のように暴れたりはしない。」孫悟空が笑って言う:「口が長く、耳が大きく、顔が醜くなければ、それでも一人前の男と言えるだろう。」沙僧が言う:「論じ合うな。ここはそんな道化を弄する場所ではない。先に入ろう、先に入ろう。」そこで行李、馬を皆草堂に運び入れ、一通り礼をして、席に着いた。その母は非常に賢く、子供を連れて、飯を炊くよう命じ、一席の素の斎を整え、師弟たちはそれを食べた。
次第に夜も更け、また灯りを点し、皆草堂で雑談していた。長老がようやく問う:「施主のお名前は?」老翁が言う:「楊と申す。」また年齢を問う。老翁が言う:「七十四歳。」また問う:「何人のご子息が?」老翁が言う:「一人だけでござる。先ほど母が連れていたのが幼い孫でござる。」長老がご子息を呼んで会わせてほしいと請う。老翁が言う:「あの者は拝謁するに値しませぬ。私は老いて運が悪く、養いきれず、今は家におりませぬ。」三蔵が言う:「どこで生計を立てておられる?」老翁は首を振り、ため息をついて言う:「哀れ、哀れ!もしどこかで生計を立ててくれるなら、それが私の幸いでありましょう。あの者は専ら悪念を生じ、正道に務めず、専ら家を襲い、人を殺し火を放つこと好みます。交わるのは皆、狐の群れや犬の仲間ばかり。五日前に出て行ったきり、未だ帰りませぬ。」三蔵、これを聞き、声も出せず、心の中で密かに思った:「もしかすると、孫悟空が打ち殺したのがこの者かも知れぬ。」長老、心もとなく、身を乗り出して言う:「善哉!善哉!このような賢い父母から、どうしてこのような不孝の子が生まれたのか?」
孫悟空が進み出て言う:「老官、このような不賢不良、奸盗邪淫の子は、親に累を及ぼす。何の用がありましょう?私が代わりにあなたのために彼を探し出して打ち殺してやりましょう。」老翁が言う:「私も本来は追い出したいのだが、どうしても他に人がおらず、たとえ器でなくとも、必ずやこの老いぼれに葬送をさせねばならぬ。」沙僧と猪八戒が笑って言う:「兄貴、余計なことを構うな。お前さんも私らも役人じゃない。あの家が承知しないのなら、我々に何の関わりがあろう?ひとまず施主に頼んで、一束の藁を恵んでもらい、そこで床を取って寝て、夜明けに出立しよう。」老翁は立ち上がり、沙僧に後園に行って二把の稲藁を取らせ、園の中の草の丸い瓢簞のような小屋で休むように言った。孫悟空が馬を牽き、猪八戒が行李を担ぎ、長老と共に皆、草の瓢簞のような小屋に休んだ。それはさておき。
さて、その賊の仲間には、確かに老楊の息子がいた。朝早く山の前で孫悟空に二人の賊の首領を打ち殺されてから、彼らは四方に散り散りに逃げていた。四更(午前二時頃)になった頃、再び一団となり、門の前で門を叩いた。老翁が門の音を聞き、衣を羽織って言う:「母さん、あの者たちが来たぞ。」母さんが言う:「来たからには、行って門を開け、家に帰してやりなされ。」老翁がようやく門を開けると、その一団の賊が皆叫んだ:「腹が減った、腹が減った。」この老楊の息子は急いで中に入り、その妻を呼び起こし、米を搗いて飯を炊かせた。ところが厨房には薪がなく、後園に薪を取りに行き、厨房で妻に問うた:「後園の白い馬はどこから来た?」妻が言う:「東土の経を取りに行く和尚が、昨夜ここに宿を借り、おじいさんとおばあさんが彼らに一食の晩飯を振る舞い、草の瓢簞のような小屋で寝かせております。」
その者、これを聞き、草堂に出て、手を打ち掌を叩いて笑って言う:「兄弟たち、幸運だ、幸運だ、仇敵が我が家にいるぞ。」衆賊が言う:「どの仇敵だ?」その者が言う:「我々の頭を打ち殺した和尚だ、我が家に宿を借りて、今草の瓢簞のような小屋に寝ている。」衆賊が言う:「好都合、好都合。あの禿奴どもを捕まえて、一人残らず微塵に切り刻んでやろう:一つにはあの行李と白い馬を手に入れ、二つには我々の頭の仇を討つのだ。」その者が言う:「急ぐな。お前たちは先に刀を研げ。俺が飯が煮えるのを待って、皆で腹いっぱい食べてから、一斉に手を下そう。」果たしてその賊たちは刀を研ぐ者、槍を研ぐ者と相成った。
その老翁、この話を聞き、こっそりと後園に歩み寄り、唐僧ら四人を呼び起こして言う:「あの者たちが大勢を連れてやって来ました。お前たちがここにいるのを知り、害そうとしております。我が老いぼれ、お前たちが遠方から来たのを思い、害するに忍びませぬ。急いで荷物を纏め、私が裏口からお前たちを送り出しましょう。」三蔵、これを聞き、震え上がりながら頭を下げて老翁に礼を言い、猪八戒に馬を牽かせ、沙僧に荷を担がせ、孫悟空に九環の錫杖を持たせた。老翁が裏口を開け、彼らを送り出し、相変わらずこっそりと前の家に戻って寝た。
さて、その連中は刀槍を研ぎ澄まし、飯を腹一杯食い、既に五更の時分となり、一斉に園中に来て見れば、姿が無かった。急いで灯りを点し、火を灯し、長いこと探したが、四方に跡形も無く、ただ後門が開いているのを見た。皆が言うには「後門から逃げた、逃げた」と。大声で叫び、追いかけて来た。一人残らず飛ぶが如く矢の如く、東の日が昇るまで追い、ようやく三蔵を望み見た。その長老は忽然と叫び声を聞き、振り返って見れば、後ろに二、三十人の者が、槍刀を群れ成して押し寄せて来る。そこで叫んで言うには「徒弟よ、賊兵が追い着いた、どうすれば良い?」。孫悟空は言う「安心せよ、安心せよ、老孫が奴らを相手にする」。三蔵は馬を止めて言う「悟空、決して人を傷つけるな、ただ脅かして追い返すだけでよい」。孫悟空はどうしてその言うことを聞こうか、急いで金箍棒を抜き取り、振り返って迎え撃ち、言うには「諸君、どこへ行くのか?」。賊共は罵って言う「禿奴、無礼だ!我らが大王的の命を返せ」。その連中は輪の陣を張り、孫悟空を中に囲み、槍刀を挙げて乱れ斬り乱れ刺す。この大聖は金箍棒をひらりと揺らし、碗の口ほどの太さに変え、その賊共を打って星散雲消せしめ、当たる者は死に、ぶつかる者は亡び、当たれば骨を折り、擦れば皮を傷つけ、利口な者は幾人か逃げ延び、愚かな者は皆、閻魔に会うこととなった。
三蔵は馬上にて、これほど多くの者が打ち倒されるを見て、驚き慌てて馬を急かし西へと奔り逃げた。猪八戒と沙和尚はしっかりと馬の後に従い、一路走り続けた。孫悟空は死なずに傷を負った賊人に問う「あの楊老人の息子はどれだ?」。その賊人は呻きながら答えて言う「おじい様、あの黄色い服を着た者がそうです」。孫悟空は進み出て、刀を奪い取り、その黄色い服を着た者の首を切り落とし、血に染まってそれを手に提げ、鉄棒を収め、雲の頭に乗って、急いで三蔵の馬の前に至り、首級を提げて言う「師匠、これが楊老人の不孝者で、老孫が首級を取って参りました」。三蔵はこれを見て、大いに驚き色を失い、驚いて馬から転げ落ち、罵って言う「この荒々しい猿猴め、私を驚かせた!早く取り除け、早く取り除け」。猪八戒が進み出て、その首級を一蹴りで路傍に蹴りやり、釘耙で幾らか土をかけて覆った。
沙僧は荷を下ろし、三蔵を支えて言う「師匠、お立ち下さい」。その長老は地にて心を落ち着け、口に緊箍児の呪を唱え始め、孫悟空を締め付けて耳は真っ赤、顔色は赤くなり、眼は脹れ、頭は昏く目は眩み、地にて転げ回り、ただ叫ぶ「唱えるな、唱えるな」。その長老は十数遍も唱え、なおも口を止めようとしない。孫悟空は宙返りを打ち、逆立ちをし、痛みに耐え難く、ただ叫ぶ「師匠、私の罪をお許し下さい、言いたいことがあればおっしゃって下さい、唱えるな、唱えるな」。三蔵はようやく口を止めて言う「言うことは無い。お前を連れて行くことはせぬ、帰れ」。孫悟空は痛みを堪えて頭を下げて言う「師匠、どうして私を追い出そうとされるのですか?」。三蔵は言う「この荒々しい猿猴、凶悪さが余りにも酷く、経を取りに行く者ではない。昨日、山の麓で二人の賊の頭を打ち殺した時、既にお前の不仁慈を責めた。夜になり老人の家に至り、その施しの飯と宿を賜り、またその後門を開けて我々の命を逃がしてくれた恩を受けた。その息子が不孝であるとは雖も、我に関わり無く、その首を斬るべきでは無かった。ましてやまた、これほど多くの人を殺し、どれほどの命を滅ぼし、天地の和気をどれほど損なったか。幾度も諭したが、少しの善念も無く、何の用に立とうか?早く行け、行け、呪文をまた唱えぬように」。孫悟空は恐れ、ただ叫ぶ「唱えるな、唱えるな、私は行きますから」。行くと言うや否や、一つ筋斗雲にて、影も形も無く、忽ちに消え失せた。ああ!これこそ:
心中に凶狂あれば丹薬熟さず、神に定まる處無くんば道行成り難し。
畢竟、あの大聖は何処へと向かったか知らず、且く次の回の分解を聴け。
