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西遊記

第七十一回 行者仮名降怪犼 観音現象伏妖王

第 71 篇

第七十一回 行者、名を偽りて怪犼を降し、観音、現象して妖王を伏す

色即是空、古より此の如し。空も色を説くは亦是の如し。人能く色空の禅理を悟徹せば、何ぞ丹砂を用いて炮煉せん。徳行は全面修持して怠るべからず、功夫は苦苦熬煎すべし。時ありて功行円満すれば朝天し、永く仙顔変ぜず。

話に賽太歳は前後の門戸を緊に閉ざし、行者を捜尋し、黄昏の時に至るまで嚷し続け、蹤跡を見ず。剥皮亭に坐して、群妖を点聚し、号令を発し、各門に鈴を提げ号を唱え、鼓を撃ち梆を敲くを教う。一個個弓を弦に上せ、刀を鞘より出し、支更坐夜す。

元来、孫大聖は痴き蠅と変じ、門旁に釘しつく。前面の防備の甚だ緊なるを見、翅を抖い、後宮の門首に飛び入り看る処、金聖娘娘は御案に伏し、清清と涙を滴らせ、隐隐と声悲しむ。行者門内に飛び入り、軽く彼の烏雲の散髻の上に落ち、其の哭く所を聴く。少頃の間、那の娘娘忽然として声を失い:「主君よ、我と君は:

前生に断頭香を焼きし故、今世に荒き怪王に遭えり。

鳳を拆かれ三年、何日か会わん? 鴦を分かたれ両処、致す所は悲傷。

差し来たりし長老才ち通信し、佳姻を驚き散らし一命亡ぶ。

只だ金鈴の解識し難きが為に、相思は又旧時に勝りて狂わん。」

行者此の言を聞き、即ち身を移して彼の耳根の後に到り、悄悄的と叫びて:「聖宮娘娘よ、汝恐懼するなかれ。我は仍お汝が国より差し来たりし神僧孫長老なり、未だ命を傷つけられず。只だ自家性急に因り、妝台に近づき金鈴を偸み、汝と妖王の酒を飲む時、我却て身を脱して前亭を出で、忍びず打開けて看る。期せずして那の口を塞ぐ綿を引き動かし、鈴一声響き、烟・火・黄沙を迸らす。即ち我手脚を慌てさせ、金鈴を丟ち、原身を現じ、鉄棒を使い、苦戦して出でず、恐るらくは毒手に遭わんと、故に蠅と変じ、門枢に釘しつき、今に至るまで躲る。那の妖王愈々严緊に、門を開くを肯んぜず。汝再び夫妻の礼を以て、彼を哄し入れ安寝せしめよ、我好く身を脱し事を行い、別に区処を為し汝を救わん。」

娘娘此の言を聞き、戦兢兢として、発は神に揪まるるが如し;虚怯怯として、心は杵に築かるるが如し。涙汪汪として曰く:「汝今是れ人か是れ鬼か?」行者曰く:「我も人に非ず、我も鬼に非ず、今蠅と変じ此に在り。汝怖るるなかれ、速やかに行き那の妖王を請え。」娘娘信ぜず、涙滴滴として、悄語低声に曰く:「汝我を魘寐するなかれ。」行者曰く:「我豈敢て汝を魘寐せん? 汝若し信ぜずんば、手を展べ、我が跳び下りて汝に見るを待て。」那の娘娘真に左手を張り開く。行者軽く飛び下り、彼の玉掌の間に落つ。好くも似たり:

菡萏の蕊頭に黒豆を釘す、牡丹の花の上に遊蜂を歇う;

繡球の心に葡萄落ち、百合の枝辺に黒点濃し。

金聖宮玉掌を高く擎げ、声を叫びて:「神僧。」行者嘤嘤と応えて曰く:「我は神僧の変じたる者なり。」那の娘娘方に信ず。悄悄として曰く:「我去りて那の妖王を請する時、汝却て怎に事を行わん?」行者曰く:「古人云く:『一生を断送するは惟だ酒のみ。』又云く:『万事を破除するは酒に過ぐる無し。』酒の用為する所多端なり。汝只だ飲酒を以て上と為せ。汝将に贴身の侍婢を呼び一箇を入れ、指し示して我に見せよ。我即ち彼の模样と変じ、旁に在りて伏侍し、好く手を下さん。」

那の娘娘真に言に依り、即ち叫びて:「春娇何処に在る?」那の屏風の後より一つの玉面狐狸転じ出で、跪きて曰く:「娘娘春娇を喚びて何の使令有るや?」娘娘曰く:「汝行きて彼等を呼び紗灯を点じ、脳麝を焚き、我を扶け前庭に上り、大王を請いて安寝せしめよ。」那の春娇即ち前面に転じ、七八箇の怪鹿妖狐を叫び、両対の灯籠、一対の提炉を打ち、左右に擺列す。娘娘身を欠き手を叉す。大聖已に飛び去れり。好行者、翅を展べ、径に那の玉面狐狸の頭に飛び到り、一根の毫毛を抜き、仙気を吹き、叫びて:「変!」と。一つの瞌睡虫と変じ、軽く彼の顔上に放つ。元来瞌睡虫は人の顔に到れば、鼻孔に往きて爬り、孔中に爬り入れば、即ち瞌睡す。那の春娇果して漸く困倦を覚え、脚を立つるに堪えず、摇桩打盹し、即ち忙しく原の睡処を尋ね、頭を丟ち倒し、只情け呼呼の睡りを為す。行者跳び下り、身を摇り一変し、那の春娇一般の模样と変じ、屏風を転じ、衆と排立す。是れを説くを休む。

却て那の金聖宮娘娘、前に往き正に走る。小妖有り見て、即ち賽太歳に報じて曰く:「大王、娘娘来たれり。」那の妖王急ぎ剥皮亭の外に出で迎え迓う。娘娘曰く:「大王よ、烟火既に息み、賊已に蹤無し。深夜の際、特に大王を請いて安置せしめん。」那の妖満心歓喜して曰く:「娘娘珍重せよ。卻て那の賊は即ち孫悟空なり。彼我が先锋を敗り、我が小校を打ち殺し、変化して入り来たり、我らを哄せり。我ら此の如く搜检すれども、彼却って渺として蹤跡無し、故に心上安からず。」娘娘曰く:「那の厮は走り脱けしと思わる。大王放心、慮る勿れ、且つ自ら安寝せよ。」妖精、娘娘の侍立して敬請するを見、敢えて堅辞せず、只得群妖に吩咐し、各おの小心火烛し、謹みて盗贼を防ぐべし。遂に娘娘と径に後宮に往く。行者仮に春娇と変じ、両班の侍婢より引き入れらる。

娘娘叫びて:「酒を安排し来たり大王の労を解せん。」妖王笑いて曰く:「正是、正是。速やかに酒を将ち来たれ、我娘娘と驚きを压さん。」假春娇即ち同く衆怪と果品を鋪排し、些の腥肉を整頓し、桌椅を調開す。那の娘娘杯を擎げ、此の妖王も亦一杯を奉上し、二人杯盏を穿換す。假春娇旁に在り、酒壶を執りて曰く:「大王と娘娘は今夜才ち杯盏を递交せり。請う各おの飲み干し、双喜杯児を穿たん。」真に又各おの斟み、又飲み干す。「假春娇」又曰く:「大王娘娘の喜会、衆侍婢の会うて唱うる者は供唱し、善く舞う者は起舞せよ。」説き未だ畢らず、只だ一派の歌声を聞く、齐しく音律を調う。唱うる者は唱い、舞う者は舞う。彼の二人又多く飲む。娘娘叫びて歌舞を止む。衆侍婢分班し、屏風外に出で擺列す。惟だ假春娇壶を執り、上下に酒を奉ず。娘娘と那の妖王は専ら夫妻の話を説くのみ。汝看よ、那の娘娘一片の雲情雨意、那の妖王を哄して骨軟筋麻たらしむ。只だ福無く、身に沾くを得ず。可怜!真に猫の尿胞を咬む──空喜びなり。

叙すこと一会、笑うこと一会。娘娘問いて曰く:「大王、宝贝曾て傷損せずや?」妖王曰く:「此の宝贝は乃ち先天抟铸の物、如何で損を得ん? 只だ那の贼に口を塞ぐ綿を引き開けられ、豹皮の包袱を焼かれしのみ。」娘娘曰く:「怎生收拾せん?」妖王曰く:「收拾を用いず、我腰間に帯びて在り。」假春娇此の言を聞き、即ち毫毛一把を抜き、嚼みて粉碎し、軽く妖王に挨り近づき、那の毫毛を彼の身上に放ち、三口の仙気を吹き、暗暗と叫びて:「変!」那些の毫毛即ち三様の悪物と変じ、乃ち虱子、虼蚤、臭虫なり。妖王の身内に攻め入り、皮膚に挨って乱れ咬む。那の妖王燥痒禁じ難く、手を入れ懐を揣み揉痒し、指頭を用いて幾箇の虱子を捏み出し、灯前に拿ち近づき看る。娘娘見て、含忖して曰く:「大王、想うに衬衣の垢つき、久しく不曾て浆洗せず、故に此の物を生ぜしならん。」妖王慚愧して曰く:「我從來此の物を生ぜず、可可に今宵出醜す。」娘娘笑いて曰く:「大王何を以て出醜と為す? 常言道く:『皇帝の身上にも三箇の御虱有り』と。且つ衣服を脱ぎ、我が汝の為に捉えんことを待て。」妖王真に帯を解き衣を脱す。

假の春嬌はそばで、わざとじっくりとその妖王の身に着けた衣服を見ると、どの重ねにも蚤が跳ねており、どの衣服にも大きな南京虫がびっしりと這っていた。親子蚤もびっしりと濃く、まるで蟻が巣から出てくるようであった。知らず知らずのうちに三枚目の肌に近いところまで剥ぐと、あの金鈴の上にはひしめき合って、数えきれないほどであった。仮の春嬌は言った。「大王、鈴をお渡しください。私にも虱を取らせてください。」あの妖王は、一つには恥ずかしく、一つには慌てていたので、真偽を見極めることもできず、三つの鈴を仮の春嬌に手渡した。仮の春嬌はそれを手に取り、しばらく弄っていたが、妖王が頭を垂れて衣服を振るっているのを見ると、金鈴を隠し、一本の毛を抜いて、三つの鈴に変え、そっくりそのままにして、灯の前でひっくり返して調べた。そして体をくねらせて震わせ、あの虱や南京虫や蚤をすべて自分の身に収め、偽の金鈴をあの妖怪に手渡した。あの妖怪はそれを受け取ると、ますますわけがわからずぼんやりとして、何が真で何が偽かなど、どうして見分けられようか。両手でその鈴を捧げ持ち、娘娘に言った。「今回はしっかりとお納めください。しかし、くれぐれも念には念を入れ、前回のようであってはなりません。」あの娘娘はそれを受け取り、そっと衣箱を開け、あの偽の鈴をしまい、金の錠で鍵をかけた。また妖王と数杯の酒を飲み、侍女に命じた。「歯の台を拭き、錦の布団を敷きなさい。私と大王が共に寝ます。」あの妖王は何度も承知して言った。「不運、不運、お相手できかねます。私はまだ侍女を連れて西の宮に行き寝ます。娘娘はどうぞお休みください。」こうしてそれぞれ自室に戻り、寝た。それはさておき、仮の春嬌は目的を達し、宝物を腰に帯び、正体を現し、体を震わせて、あの眠り虫を収め、まっすぐに歩き出した。すると、梆と鈴が一斉に鳴り、ちょうど三更を打つところであった。さすがは行者、印を結び、真言を唱え、隐身法を使い、門のところまで来ると、また門がしっかりと鍵がかかっているのを見た。そこで金箍棒を取り出し、門に向かって一指し、あの解錠の法を使うと、門は軽々と開いた。急いで門を出て立ち、鋭い声で高く叫んだ。「賽太歳、金聖娘娘を返せ。」二、三度叫ぶと、大小の群妖が驚いて見に来ると、前門が開いていた。すぐに灯りをともして鍵を探し、門を再び鍵をかけた。数人が中へ走って報告した。「大王、門の外に人がいて、大王の尊号を呼び、金聖娘娘を要求しております。」そこの侍女は宮門を出て、ひそかに伝えた。「騒ぐな、大王はようやくお眠りになったところだ。」行者はまた門の前で高声に叫んだが、あの小妖はあえて知らせに行けなかった。こうして三、四度騒いだが、誰も報告しようとしなかった。あの大聖は外で騒ぎ立て、夜が明けるまで騒いだ。我慢できず、手に鉄棒を振り回し、前に出て門を叩いた。慌てて大小の群妖は門を支える者、報告に行く者とそれぞれだった。あの妖王はようやく目覚め、ただ騒がしい喧騒を聞き、起き上がって衣服を着け、羅帳の外に出て、尋ねた。「何を騒いでいるのだ。」侍婢たちがやっとひざまずいて言った。「おじいさま、何者かが洞の外で深夜まで罵っており、今は門を叩いております。」

妖王は宮門を出ると、あの報告に来た数人の小妖が慌てふためいてひざまずき言った。「外の者が罵っており、金聖宮娘娘を返せと申します。『いや』の一言でも言えば、無数の無礼な言葉を吐き、聞くに堪えません。夜が明けても大王が出てこられないのを見て、門を叩くに至りました。」あの妖は言った。「まだ門を開けるな。行って、どこから来たのか、姓は何で名は何かを聞いて、すぐに戻って報告しろ。」小妖は急いで出て行き、門越しに尋ねた。「門を叩くのは誰だ。」行者は言った。「我は朱紫国から招かれて来た外公だ。聖宮娘娘を国に連れ戻しに来たのだ。」あの小妖はこれを聞き、その言葉のままに報告した。あの妖はすぐに後宮に行き、由来を尋ねた。もともとあの娘娘は起きたばかりで、まだ髪も整えていなかったが、早くも侍婢が来て報せた。「おじいさまがおいでになりました。」あの娘娘は急いで衣服を整え、黒髪をだらりと結い、出迎えた。ようやく腰を下ろし、まだ尋ねる間もなく、また小妖が来て報せた。「来た外公がすでに門を破ってしまいました。」あの妖は笑って言った。「娘娘、あなたの朝廷にはどれほどの将帥がいるのか。」娘娘は言った。「朝廷には四十八の衛の軍馬、千人の良将がおります。各辺境の元帥や総兵は数えきれません。」妖王は言った。「『外』という姓の者はいるか。」娘娘は言った。「私は宮中におり、ただ内側で君王を補佐し、朝夕に妃嬪を教えるだけで、外のことは果てしなく、どうして姓名を覚えておりましょう。」妖王は言った。「この来た者は『外公』と名乗る。思うに『百家姓』の中には、『外』という姓はない。娘娘は生まれつき聡明で、高貴な生まれ、宮中におられるので、きっと多くの書物をお読みであろう。どの書物にこの姓があったか覚えておられるか。」娘娘は言った。「ただ『千字文』に『外受傅訓』という句があり、おそらくこれでありましょう。」

妖王は喜んで言った。「きっとそうだ、きっとそうだ。」すぐに立ち上がって娘娘に別れを告げ、剥皮亭に行き、装束を整え、妖兵を召集し、門を開けて外に出ると、手に一振りの宣花鉞斧を持ち、鋭い声で高く叫んだ。「朱紫国から来た外公とはどれだ。」行者は金箍棒を右手に握り、左手で指さして言った。「賢甥よ、俺を呼んでどうする。」あの妖王はこれを見て、心中大いに怒り、言った。「この奴め、

容貌は猿のようで、面構えは猢狲のようだ。

七分はまさに鬼、大胆にも人を欺く。」

行者は笑って言った。「この天を欺き君を騙す破廉恥な妖怪め、元より目がなかったのだ。思えば我が五百年前に大鬧天宮をした時、九天の神将たちは我を見て、『老』の字を称さぬ者は一人もいなかった。お前が我を外公と呼ぶのは、どこが不足だというのか。」妖王は叱りつけて言った。「早く姓は何で名は何か、どんな武芸があるのかを言え。よくも我がもとで猖獗を極めるとは。」行者は言った。「お前が姓名を尋ねなければそれで良かったものを、もし我に姓名を言わせるなら、お前は立つ場所すらなくなるぞ。上がって来い、しっかりと立て、聞け。

生身の父母は天地、日月の精華が聖胎を結ぶ。

仙石に抱かれて歳月を知らず、霊根に育まれていと不思議。

当年に我を産みしは三陽の泰、今日に帰真すれば万会も諧う。

曾て衆妖を集めて帥首と称し、能く衆怪を降して丹崖に拝す。

玉皇大帝は伝宣の旨を下し、太白金星は詔を捧げて来た。

我を請いて上天し職裔を継がしめ、官は弼馬に封ぜられ心開かず。

初心は造反して山洞を謀り、大胆に興兵して御階を鬧がす。

托塔天王并びに太子、一戦に及んで尽く狼狽す。

金星は復た奏す玄穹の帝、再び招安の勅旨を降ろす。

封じて斉天の真大聖と為す、その時に方て棟梁の材と称す。

又、蟠桃の会を攪乱し、酒に仗りて丹を偸み災いを惹く。

太上老君は親しく駕に奏し、西池の王母は瑶台に拝す。

情知我は王法を欺くと、即ち天兵を点じ火牌を発す。

十万の凶星并びに悪曜、干戈剣戟密に排す。

天羅地網は山に漫り布き、斉しく刀兵を挙げ大会垓。

悪闘一場勝敗無く、観音は二郎を推薦して来たる。

両家対敵して高下を分かち、彼に梅山の兄弟侪有り。

各々英雄を逞しくし変化を施し、天門の三聖雲を撥き開く。

老君は金剛の套を失い、衆神我を擒えて金階に到る。

詳允の書供状を須いず、罪は凌遲の殺斬の災に犯す。

斧に剁かれ槌に敲かれ命を損ない難く、刀に抡われ剣に砍たれ怎にて傷つけ得ん。

火に焼かれ雷に打たれて只だ此の如し、計無くして長寿の胎を摧く。

押して太清の兜率院に赴き、炉中に煅煉し尽く安排す。

日期満ちて始めて鼎を開く、我は向かの中より跳び出でん。

手に此の如意の棒を挺て、身を翻して玉龍の台に打ち上る。

各星各象皆潜み躲れ、大鬧天宮我が任に歪しむ。

巡視の霊官は忙しく仏を請い、釈伽我が為に英材を逞しむ。

手心の内に筋斗を翻し、周天を遊遍して去り復た来たる。

仏は先知の賺哄の法を使い、彼に圧せられて天涯に在り。

今に至り五百余年矣、微躯を解脱し又弄乖く。

特に唐僧を保ち西域に去る、悟く行く者は甚だ明白なり。

西方の路上に妖怪を降す、あの妖邪懼れざる者有らんや。」

あの妖王は彼の口から悟空行者と聞くと、言った。「お前はあの大鬧天宮をした奴か。お前が身を脱して唐僧を保ち西へ行くなら、お前の道を行けばよいものを、どうして余計な世話を焼き、あの朱紫国の奴隷となり、我がもとに来て死にを求めるのか。」行者は叱りつけて言った。「この賊の破廉恥な妖怪め! 言葉を知らぬ。我は朱紫国の拝請の礼を受け、また彼の称呼と款待の恩に浴した。我が老孫はあの王位よりも千倍も高く、彼は我を父母のように敬い、神明のように仕える。お前がどうして『奴隷』の二字を口にするのか。我はこの天を欺き君を騙す妖怪め、行くぞ、外公の一棒を食らえ。」あの妖王は手も足も出ず、身をかわして避け、宣花斧を向かって振り下ろした。この一戦、見事な殺し合いである。見よ:

金箍如意棒、風刃宣花斧。一人は歯を食いしばり猛り狂い、一人は歯を食いしばり武勇を奮う。これは斉天大聖が凡間に降臨した者、あれは怪をなす妖王が土の下に来た者。二つは雲を噴き霧を吐き天宮を照らし、まさに石を飛ばし砂を巻き上げ斗府を遮る。行き来して技数多く、翻り繰り返し金光を吐く。共に技を施し、各々神通を賭して競う。これは娘娘を都に連れ戻そうとし、あれは皇后と山の麓に住むのを喜ぶ。この戦いは全て理由無く、国王の為に命を捨て死を忘れる。

彼ら二人は五十合戦い、勝敗は決まらなかった。あの妖王は行者の手際が優れているのを見て、勝てないと見積もり、斧で彼の鉄棒を受け止めて言った、「孫行者、少し待て。我輩は今日まだ朝餉を取っておらぬ。膳を済ませてから、再び来て雌雄を決しよう。」行者はそれが鈴を取りに行こうとしているのを知っており、鉄棒を収めて言った、「『好漢は疲れた兎を追わぬ』。行け、行け、十分に食って、死にに来るがよい。」

あの妖は急ぎ身を翻して中に入り、娘娘に言った、「早く宝物を出せ。」娘娘が言った、「宝物をどうするのか?」妖王が言った、「今朝呼び戦ったのは、経を取りに行く僧の弟子で、孫悟空行者と云い、外公と偽って名乗った。我輩は彼と今まで戦い、勝敗がつかぬ。宝物を持って出て、煙火を放ち、この猿頭を焼いてしまおう。」娘娘はこれを聞き、心中どきどきした。鈴を出さないのは、彼に疑われるのが怖く、鈴を出すのは、孫行者の命を傷つけるのが怖かった。まさに躊躇して決めかねていると、あの妖王がまた急き立てて言った、「早く出せ。」この娘娘はやむを得ず、錠前を開け、三つの鈴を妖王に渡した。妖王はそれを受け取り、洞の外へ出て行った。娘娘は宮中に座り、涙が雨のように流れ、行者が無事に命を逃れられるかどうかを思い悩んだ。二人ともそれが偽の鈴であるとは知らなかった。

あの妖は門を出ると、すぐに風上の位置を取り、叫んだ、「孫行者、逃げるな。我輩が鈴を振るのを見よ。」行者は笑って言った、「お前に鈴があるなら、我輩に鈴が無いと思うか?お前が振れるなら、我輩が振れぬとでも?」妖王が言った、「お前にどんな鈴がある?出して我輩に見せよ。」行者は鉄棒を針の大きさに捏ね、耳の中に隠した。そして腰から三つの真の宝物を解き下ろし、妖王に向かって言った、「これは我輩の紫金鈴ではないか?」妖王はこれを見て、心に驚き言った、「奇怪、奇怪!彼の鈴がどうして我輩の鈴と全く同じなのだ?例え同じ型で鋳たとしても、磨き上げが届かず、痣が多かったり、茎が少なかったりするものだが、どうしてこれほど一糸違わぬのか?」また問うた、「お前の鈴はどこから来たのだ?」行者が言った、「賢甥よ、お前の鈴はどこから来たのだ?」妖王は正直に、こう言った、「我輩のこの鈴は:太清仙君の道源深く、八卦炉の中に久しく煉られた金。鈴を結びて至宝と称し、老君が留めて今に至る。」行者は笑って言った、「老孫の鈴も、その時に来たものだ。」妖王が言った、「どのようにして出て来たのか?」行者が言った、「我輩のこの鈴は:道祖が兜率宮で丹を焼き、金鈴を炉の中で抟煉した。二三が六で循環する宝、我輩の雌がお前の雄だ。」妖王が言った、「鈴は金丹の宝であり、飛禽走獣ではない。どうして雌雄を弁別できる?ただ揺すって宝を出せれば、良いものだ。」行者が言った、「口で言っても証拠にならぬ。やってみせれば分かる。まずはお前に振らせてやろう。」

あの妖王は確かに最初の鈴を三度振ったが、火は出なかった。二つ目を三度振ったが、煙は出なかった。三つ目を三度振ったが、砂も出なかった。妖王は慌てふためいて言った、「怪しい、怪しい!世の中が変わったのか、この鈴は恐らく妻を怖がり、雄が雌を見たので、出て来ぬのだ。」行者が言った、「賢甥よ、手を止めよ。我輩もお前のために振って見せよう。」良きかなこの猿、一気に三つの鈴を掴み、一緒に振り始めた。見よ、紅い火、青い煙、黄色い砂が、一緒に滾り出て、ぼこぼこと木を焼き山を焼く。大聖は口の中でまた呪文を唱え、巽の方角に向かって叫んだ、「風来たれ!」まさに風は火の勢いを促し、火は風の威力を帯び、紅く燃え盛り、黒く昏く、満天に煙火、遍地に黄砂。あの賽太歳をして魂消え魄散り、逃げ道を失わせ、その火の中にあって、どうして命を逃れられようか?

只聞く半空に厲聲高く叫ぶ:「孫悟空、我來たり。」行者急ぎ振り返り上を望めば、原來は觀音菩薩、左手に淨瓶を托し、右手に楊柳を持ち、甘露を灑きて火を救う。慌てて行者、鈴を腰に藏し、即ち合掌して身を倒し拜す。かの菩薩、柳枝にて數點の甘露を拂い、瞬く間に煙火悉く無く、黃沙跡を絕つ。行者叩頭して曰く:「大慈の臨凡を知らず、失して迴避する有り。敢えて問う、菩薩何れに往かせ給うや。」菩薩曰く:「我、特に來たりて此の妖怪を收め尋ぬ。」行者曰く:「此の怪、何の來歷ぞ、敢えて金身を勞して下降し之を收む。」菩薩曰く:「彼は我が跨る金毛犼なり。牧童の盹睡に因り、防守に失し、此の孽畜、鐵索を咬み斷ちて來り、卻って朱紫國王に消災せんとす。」行者言を聞き、急ぎ身を欠きて曰く:「菩薩、反りて言えり。彼、此にて君を欺き后を騙り、俗を敗り風を傷り、かの國王に災を生ず。卻って消災と曰うは、何ぞや。」菩薩曰く:「汝知らざるなり。當時、朱紫國の先王位に在る時、此の王、尚東宮の太子たりし。未だ登基せず。彼、幼年の間、極めて射獵を好む。彼、人馬を率い、鷹犬を縱放し、正に落鳳坡の前に來りしに、西方佛母孔雀大明王菩薩の生める二子、乃ち雌雄兩個の雀雛、翅を停めて山坡の下に在り。此の王、弓を開く處、雄孔雀を射傷し、かの雌孔雀も箭を帶びて西に歸す。佛母、懺悔して後、彼に吩咐し、鳳を拆くこと三年、身に啾疾を擔わしむ。その時節、我、此の犼を跨り、同じく此言を聞く。期せずして此の孽畜、心を留め、故に來りて皇后を騙り、王に消災す。今に至りて三年、冤愆滿足す。幸いに汝來りて王患を救治す。我、特に來りて妖邪を收むるなり。」行者曰く:「菩薩、是の如き故事と雖も、奈何ぞ彼、皇后を玷污し、俗を敗り風を傷り、倫を壞り法を亂し、實に彼に死罪當る。今、蒙るに菩薩の親臨を以てし、彼の死罪を饒すと雖も、其の活罪を饒すを得ず。我をして彼を二十棒打たしめ、汝に帶び去らしめん。」菩薩曰く:「悟空、汝既に我の臨凡を知れば、當に我が分上を看て、一切に饒すべし。亦、汝の一番の降妖の功と算すべし。若し棍子を動かさば、彼も即ち死せん。」行者、敢えて言に違わず、只得く拜して曰く:「菩薩既に彼を收めて海に回らば、再び彼をして私に人間に降らしめ、害を貽すこと淺からざらしむること勿かれ。」言未だ畢らざるに、半空に厲聲高く叫ぶ:「孫悟空、我來たり。」行者急ぎ振り返り上を望めば、原來は觀音菩薩、左手に淨瓶を托し、右手に楊柳を持ち、甘露を灑きて火を救う。慌てて行者、鈴を腰に藏し、即ち合掌して身を倒し拜す。かの菩薩、柳枝にて數點の甘露を拂い、瞬く間に煙火悉く無く、黃沙跡を絕つ。行者叩頭して曰く:「大慈大悲の菩薩の臨凡を知らず、失して迴避する有り。敢えて問う、菩薩何れに往かせ給うや。」菩薩曰く:「我、特に來りて此の妖怪を收伏す。」行者曰く:「此の怪、何の來歷ぞ、敢えて金身を勞し下降して之を收伏す。」菩薩曰く:「彼は我が騎する一隻の金毛犼なり。牧童の盹睡に因り、防守に失し、此の孽畜、鐵索を咬み斷ちて走り來り、卻って朱紫國王に消災せんとす。」行者言を聞き、急ぎ身を欠きて曰く:「菩薩、反りて言えり。彼、此にて君を欺き后を騙り、風俗を敗り風化を傷り、かの國王に災禍を生ず。而るに消災と曰うは、何ぞや。」菩薩曰く:「汝知らざるなり。當時、朱紫國の先王位に在る時、此の王、尚東宮の太子にて、未だ登基せず。彼、幼年の間、極めて射獵を好む。彼、人馬を率い、鷹犬を縱放し、正に落鳳坡の前に來りしに、西方佛母孔雀大明王菩薩の生める二子、乃ち雌雄兩個の小孔雀、翅を停めて坡下に在り。此の王、弓を開く處、雄孔雀を射傷し、かの雌孔雀も箭を帶びて西に歸す。佛母、懺悔して後、彼に吩咐し、鳳を拆くこと三年、身に啾疾を擔わしむ。その時節、我、此の犼を跨り、同じく此言を聞く。期せずして此の孽畜、心を留め、故に來りて皇后を騙り、王に消災す。今に至りて三年、冤愆滿足す。幸いに汝來りて王患を救治す。我、特に來りて妖邪を收伏す。」行者曰く:「菩薩、是の如き故事と雖も、奈何ぞ彼、皇后を玷污し、風俗を敗り風化を傷り、倫常を壞り法紀を亂し、實に彼に死罪當る。今、蒙るに菩薩の親臨を以てし、彼の死罪を饒すと雖も、其の活罪を饒すを得ず。我をして彼を二十棒打たしめ、更に汝に帶び去らしめん。」菩薩曰く:「悟空、汝既に我の臨凡を知れば、當に我が面を看て、一切に饒すべし。亦、汝の一番の降妖の功と算すべし。若し棍子を動かさば、彼も即ち死せん。」行者、敢えて言に違わず、只得く拜して曰く:「菩薩既に彼を收めて海に回らば、再び彼をして私に人間に降らしめ、害を貽すこと淺からざらしむること勿かれ。」

かの菩薩、才ち一聲を喝す:「孽畜!尚還原せず、何の時を待つや。」只だ見ゆ、かの怪、打ち滾りて、原身を現し、毛衣を抖り、菩薩騎す。菩薩又項下を望み看るに、かの三個の金鈴を見ず。菩薩曰く:「悟空、我に鈴を還せ。」行者曰く:「老孫知らず。」菩薩喝して曰く:「此の賊猴!汝の此の鈴を偷らざれば、一箇の悟空と云うも、即ち十箇と雖も、敢えて身に近づかず。快く出せ。」行者笑いて曰く:「實に曾て見ず。」菩薩曰く:「既に曾て見ずとせば、我を待ちて緊箍兒咒を念ぜん。」かの行者慌て、只だ教う:「念ずる莫れ、念ずる莫れ。鈴兒此に在り。」正しく是れ:犼項の金鈴、何れの人か解かん?鈴を解く人は、還た鈴を繫ぐ人に問う。菩薩、鈴兒を犼の項の下に套し、飛身して高坐す。汝看よ、彼の四足蓮花生じて燄燄たり、滿身金縷迸じて森森たり。大慈悲、南海に回りて、題せず。

卻說、孫大聖、衣裙を整束し、鐵棒を抡いて獬豸洞に打ち入り、群妖衆怪を盡情に打ち殺し、剿除して乾淨にす。直ちに宮中に至り、聖宮娘娘を請じて國に回らしむ。かの娘娘、頂禮して盡きず。行者、菩薩の降妖並びに拆鳳の原由を備に說きて一遍す。些の軟草を尋ね、一條の草龍を扎り、教う:「娘娘、跨りて、眼を合せ、懼るる莫れ、我汝を帶びて朝に回り主に見えしめん。」かの娘娘、謹みて吩咐に遵う。行者、神通を起し、只だ耳內に風響くを聞く。

半時辰ほど経って、彼は皇后を連れて都に入り、雲に乗って降り立ち、「后妃様、お目を開けてください」と言った。皇后が目を開けて見ると、宮殿の大殿であると悟り、喜んで草龍を捨て、行者と共に宝殿に上がった。国王はこれを見て、急いで龍床から降り、娘娘の玉の手を取ろうとして、別れの情を語ろうとしたが、突然地面に倒れ込み、「手が痛い、手が痛い」と叫んだ。八戒は大笑いして言った。「お前のその顔立ちでは、福がなくて耐えられない。一目見ただけで刺されて死んでしまった。」行者は言った。「ぼんやり者、お前は彼女に触れてみるか?」八戒は言った。「触ったところで、どうだというのだ?」行者は言った。「娘娘の体には毒の棘が生えていて、手には人を刺す陽毒がある。麒麟山に着いてから、あの賽太歳と三年過ごしたが、妖怪は全く彼女に触れることができなかった。触れれば全身が痛み、手に触れれば手が痛むのだ。」衆官はこれを聞いて言った。「このような場合、どうすればよいのか?」その時、外の衆官は皆憂い不安に陥り、宮中の妃嬪たちも皆恐れおののいた。傍らにいた玉聖宮、銀聖宮の二人の宮人が、君王を支えて起こした。

皆が騒然としている中、突然半空から声がして、「大聖、私が参りました」と言った。行者が頭を上げて見ると、その様子は:

粛穆たる鶴の鳴き声は天に衝き、ゆらゆらと殿前に来た。一条の祥光が絡み合い、一陣の瑞気がひらひらと舞う。棕衣を身にまとい雲煙を放ち、草鞋を履いて珍しい。手に龍鬚の蠅取りを持ち、絲絛が腰を巻く。天地の間、至る所に人縁を結び、逍遥として大地を遍く遊ぶ。これは大羅天上の紫雲仙、今日下界に来て魔を解く。

行者は迎えに行って尋ねた。「張紫陽はどこへ行かれるのか?」紫陽真人は殿前に進み出て、躬身して礼を述べた。「大聖、小仙の張伯起が拱手して礼を申し上げます。」行者は礼を返して言った。「あなたはどこから来られたのか?」真人は言った。「小仙は三年前、仏会に参加するため、ここを通りかかりました。朱紫国の国王に鳳凰を引き裂く憂いがあるのを見て、あの妖怪が皇后を汚し、人倫を損なうことを心配しました。後日、国王と再び結ばれるのが難しくなると思い、古い棕衣を新しく輝く霞の衣に変え、五色に光彩を放たせて、妖怪の国王に献上し、皇后に着せて新しい衣とさせました。その皇后が身に着けると、すぐに全身に毒の棘が生えました。毒の棘とは、実は棕衣のことです。今、大聖が成功されたと知り、特に魔障を解くために来ました。」行者は言った。「それならば、遠路を労して来られたのだから、すぐに解いてください。」真人は前に進み出て、娘娘に向かって手で一指しすると、すぐにその棕衣を脱がせた。娘娘の全身は元の通りに戻った。真人は衣を振るって、身にまとい、行者に言った。「大聖、お許しください。小仙はこれで失礼します。」行者は言った。「ちょっと待て、君王が感謝するのを待て。」真人は笑って言った。「結構です、結構です。」そうして長揖一礼し、空に飛び去った。慌てて皇帝、皇后、そして大小の衆臣が、皆空に向かって礼拝した。

拝み終わると、国王はすぐに東閣を開き、四人の僧を宴に招くよう命じた。君王は人々を率いて跪拝し、夫妻はようやく再会することができた。宴を楽しんでいる最中、行者は叫んだ。「師匠、あの戦書を貸してください。」長老は袖から取り出し、行者に渡した。行者はさらに国王に渡して言った。「この手紙は、あの妖怪が小校に送らせたものです。その小校は私が打ち殺し、功績として送りました。その後、私は山に入り、小校に化けて洞窟に入り返事をし、それによって娘娘に会い、金鈴を盗み出しましたが、危うく捕まるところでした。再び姿を変え、金鈴を再度盗み出し、彼と対決しました。幸い観音菩薩に会って彼を連れ去っていただき、また鳳凰を引き裂く理由を話していただきました……」最初から最後まで、詳しく一通りのことを話した。国中の君臣上下、感謝しない者はいなかった。唐僧は言った。「一には賢王の福気、二には我が弟子の手柄です。今、手厚くもてなしていただき、もう十分でございます。これにてお別れし、貧僧が西へ向かうのを妨げないでください。」国王は再三引き留めたが叶わず、そこで通関の文牒を書き換え、大いに鑾駕を整え、唐僧を安んじて龍車に座らせた。君王、妃子、皇后は皆、自ら車輪を押し、見送って別れを告げた。まさに:

縁あって憂い疑いの病を洗い尽くし、念を絶ち思うことなく心自ずから寧し。

果たしてこの後、さらに何の吉凶の事があるのか、それは次の回を聞いて解かれよ。